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27. 公爵からのお願い
オリバーは、父親の遺伝子をそっくりそのまま受け継いだかのような綺麗な赤ん坊。この子の命を狙う者が多い事を後宮に来て直ぐに実感した。人の機敏に疎いと常々言われている僕ですら分かる程に空気がピり付いていた。
「公爵様が僕なんかに頭を下げる訳だ……」
後宮での生活が始まった三日目にオリバーの祖父にあたる人物、アルノルト・クラルヴァイン公爵から面会を申し込まれた時は何事かと思った。
まさか『王の間』で挨拶をされる日が来るとは思わなかったよ。しかも孫であるオリバーを抱いて。
『ノア殿。オリバーの事をよろしく頼む』
『いえ、こちらこそご迷惑をおかけします』
『何を言っておられるのか。本来ならば我が一族の者が後宮に出向き、孫の面倒を見るべきところ。されどそれは後宮の秩序を乱す行為に他ならず。かと言って対策を立てようにも一向に良い案が出て来ずにヤキモキしていたのです。ノア殿には感謝しかない』
『そんな事はありません。お役に立てるかどうか分かりません。オリバー殿下が大人しい赤ん坊で滅多にぐずることも無いお陰なんです』
本当にそうだった。
オリバーは赤ちゃんなのに泣き喚く事があまりない。勿論、全然ない訳じゃないけど他と比べたら大人しい部類に入る事は育児書を読んで理解した。夜泣きもないし、泣いてもあやせば直ぐに泣き止むんだ。
僕の言葉に何故か公爵は目を見開いていた。
『なるほど。陛下がノア殿にオリバーを託したのは慧眼ですな。ノア殿、貴殿はそう謙遜などなさらずともよろしい。扱いの難しいオリバーが懐くなど早々ありはしません。きっと、貴殿は孫にとって特別なのでしょう』
『特別だなんてそんな事はありません』
『ふむ。どうでしょう。このまま私の孫を育ててくださいませんか?』
『え?で、ですが僕は男の身です。後宮には期間限定の特別処置とはいえ、入ることは許されておりますが、オリバー王子の世話をするのであれば、やはり正式な妃の誰かの猶子になられた方が宜しいかと思います』
歴史を紐解けば、親を亡くした王子や王女が他の妃の猶子になった例は結構ある。「母親」を求められた妃の殆どが「子供のいない妃」だ。母を失った子を引き取る事で妃は「王位継承権を持つ子供の養母」になれるし、子供の方も「後宮での庇護を得る」ことで安心して過ごす事ができる。双方にとってメリットがある。特に「王子の母」になりたい妃などごまんといる筈だ。
『なるほど。では、猶子先が決まるまで私の孫の『母代わり』となっていただけないでしょうか。この通り、孫のオリバーもノア殿に大層懐いているようですし』
『え?あ、あの……』
『ノア殿、どうかお願い致す』
ヒェッ!
天下の公爵閣下が平民の頭を下げてるよ!!!
『わ、わかりました。そこまで仰るのでしたら……』
『おお!そうですか!助かります。これで安心できるというもの』
『……(後宮で子育てってアリなの?)』
こうして僕はオリバーの乳母(仮)になった。男が乳母になれないから「乳母(仮)」であってるよね?
そうして今に至っている。
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