31.求婚

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31.求婚

「待たせたな」    戻ってきたルーカスの手には一枚の紙と小箱が握られていた。差し出されたその二点を見て唖然とする。    まずは婚姻届け。    しかも「妻」の欄に僕の名前が書かれているじゃないか!  何故!?  そして何で婚姻届けを持ってんの!?  え?  もしかして王族の嗜み?とか?  国王は唯一、一夫多妻制が許されているから常に持ち歩いているの??  分からない。  庶民の僕には理解できない世界だ。    そして、何で記入されてんのぉぉぉ!!! 「言っておくが、これはお前が自ら署名したものだ」 「う……ん。僕の字なのは間違いないよ」  そう、自分の字だから分かる。僕の字って結構独特な癖があるから分かり易い。婚姻届けも正式なものだ。  続いて驚かされたのは指輪。  王家の紋章が入った指輪。  それも裏に僕の名前が刻印されていた。    どういうことだ……これ?  もう頭が全くついていかないんですけど!!  混乱しまくった僕の手をルーカスはそっと取ると左手の薬指に指輪を嵌めた。  僕の指に納まったそれは光り輝いている。  まるで僕の為に作られたかのような錯覚さえしてしまうほどにピッタリと納まっていた。怖い。どうして僕のサイズを知ってるんだよ!!! 「どうだ、気に入ったか?それなら仕事中でも()()()()()()()()()()だろう?」  ハハハ。  そうだね。  金の指輪はシンプルなデザインだ。  宝石が一切使われていないから研究中でも邪魔にならないだろうなぁとか、こういったシンプルな物が好きだって知ってたんだぁ流石は幼馴染だなとか、現実逃避な事を考えていたらルーカスの左手の薬指が目に入った。  僕と同じ指輪だ。  お揃いのペアリング。  この場合、マリッジリングか。    僕の視線に気付いたルーカスは蕩けるような笑みを浮かべて言い放つ。 「これは対の指輪だ。正妃は王と揃いの指輪を付けるのが王家の習わしとなっている」 「せ、正妃!?」  とんでもない発言が飛び出してきた。  正妃ってつまり、この国の王妃ってことでしょ!?そんなのムリムリ!!  聞き間違い……じゃないね。マジの顔だ。こういう顔をする時のルーカスは真面目だ。冗談なんかじゃない。 「ああ、お前は俺の()()()()になるんだ」  ルーカスは自分の左手を掲げて見せてくる。  その顔はとても誇らしげだ。  美形はドヤ顔しても絵になる。得だよね。 「婚姻届だがな、今日中に提出する。そうなればノアが王妃だ」 「おう……ひ?ぼく……男……」  男は王妃になれない。  その前に男同士は結婚できない。  あれ?  もしかしてパートナーシップってこと?   「心配するな。法改正を行って同性婚を認めさせた。これで何の問題もなく夫婦になれるぞ」 「ふーふ?」 「そうだ。俺はノア、お前を愛してる。だから結婚しよう」 「こども……」 「俺達には既にオリバーという子供がいるだろう?世継ぎの心配はいらない。オリバーはお前と養子縁組をする手筈になっているからな」 「こーしゃく」 「クラルヴァイン公爵の許可は取ってある。ノアがオリバーの母親になるなら安心して任せられると大喜びしていたぞ」 「おーよろこび……」 「小難しい事は考えなくていい。お前は『はい』と返事さえすればいいんだ」 「は……い……?」 「よし、決まりだな。さて、これから結婚式の準備に忙しくなるぞ!!」  こうして僕は、何故か知らぬ間にルーカスのお嫁さんになってしまった。  一体何故!!?  そもそも、いつの間に同性婚が可決されたの!?  知らないよ、そんなこと!!!  あ、もうだめ。  完全にキャパオーバーだ。  僕の意識はここでブラックアウトしたのであった。  願うなら、これが夢でありますように――  信じもしていない神様にお願いした。  こういうのを「神頼み」っていうんだろうな……。
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