36.結婚式

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36.結婚式

 雲一つない青空のもと、僕ノア・タナベルと国王ルーカスの婚礼の儀が執り行われた。  法改正が成され同性婚が認められたとはいえ、国王の正妃が「男」という前代未聞の結婚式ではあったものの来賓にいたる参列者の面々は皆笑顔に溢れている。  みんな僕の結婚を祝福してくれてるんだと思って涙が出そうになった。  親族席にいる父はもうさっきから号泣だけどね。  母方の親族であるニシゴリ子爵家の皆もお祝いに駆け付けてくれた。「ついに魔王に捕まったか」とか「執念の勝利だ」とか訳の分からない事を言ってたけど何だろう?意味不明だ。僕が理解できていない事に気付いた皆は更に「ノア、その鈍感はなくしちゃだめよ。それは間違いなく生存率を上げるんだから」「魔窟に生きるには必要なもんだ」「頑張れ!」とか意味不明な励ましの言葉を掛けてきた。解せぬ。  次期子爵の従兄は「もし後宮が嫌になったら何時でも言え。うちは()()()()()()だ」とか変な事を言い出す始末。ルーカスは「その時はよろしく頼む」と頭を下げた。  まったく意味が分からない。  一体なんの話をしているんだろうか?  式が終わると馬車にのってパレードに参列する。僕はこの国にない異国の伝統衣装に身を包んでいる。なんでもニシゴリ子爵家の祖先の国の結婚衣装のようだ。白い衣の上に同じ生地の羽織を身につけ、スカートのようなものを履かされた。正確にはスカートではないんだけど、それに近いものがある。この国にはない衣装に戸惑うばかりだ。それでも僕が浮かないのはニシゴリ子爵家の参列者がそれによく似た民族衣装を着ているせいだろう。  僕はニシゴリ子爵家に似た容貌だからこの国の服装よりも東方の国の衣装の方が似合うみたい。 「本当は白無垢も用意してあったんだけど……」 「嫌だわ、お姉様。それは女性用でしょう」 「あら?ノアちゃんならとっても似合う筈だわ。うちは男の子ばっかりでしょう?」   「それこそお嫁さんに着てもらったらどうかしら?」   「それがね、皆、自分の趣味に夢中で中々恋愛にまでいかないのよ」   「なら、いっその事見合いさせてはどうかしら?」   「そうね、そうしようかしら?あちらの国の方は黒髪が多いと聞くし……そうだわ!男女の出会いの場なんて設けてもいいわね!!」   「お姉様、とてもいい考えだけど例の伯爵夫人のようにはならないでくださいね」   「勿論よ!あのお節介の話を聞かない系の迷惑ババアのようにはならないわ。馬に蹴られたくないもの」   「ふふふ。あの伯爵夫人未だに介護が必要だとお聞きしますわ」   「当たり所が悪かったのね」   「お気の毒に……」   「因果応報よ!あのババアが居なくなって王都の空気も少しは良くなったんじゃないかしら?」 「あら、お姉様。まだ侯爵夫人が健在ですわ」 「あの?」 「はい。あの、です」 「嫌だわ。まだ生きていたのね」 「今は白い病棟にいらっしゃいます。二度と出られないのでは御安心ください」 「それなら良かったわ」 「近々、お仲間も増えますから侯爵夫人は喜ぶかもしれませんわね」 「懐かしい面々に会えて喜ぶわよ、きっと。貴女の優しさに泣いて喜ぶ筈だわ」 「はい」  なんだろ?  母さんと伯母さんの間に交わされる不穏な会話は。  なんか物凄く怖い話になってませんか!?  うん。深く考えるのはやめよう。  一部怖い話をする人達はいるものの結婚式は無事に終了した。  この日、僕は王妃になった。  史上初の「男の王妃」に――――  
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