44.とある弁護士side

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44.とある弁護士side

「うっ!!?」    部屋に入ると凄まじい悪臭が襲ってきた。思わず顔を背けてしまうほどの臭いだった。何の臭いなのかはわからないが酷く鼻をつく臭さだ。腐った食べ物だろうか? 咄嗟に鼻を押さえたがそれでも悪臭は私の嗅覚を刺激してくる。  これは耐え難い。  今すぐ閉めたいところだがそうするわけにもいかない。御子息を見つけなければ何も始まらないのだ。  それにしてもなんという事か。  部屋のあちこちには洗濯物とゴミが山のように積まれている。それだけでも許し難いものがあるというのに、ゴミ溜めの中に()()()が動いているではないか。恐る恐る近づくとそれはまだ幼子であった。埋もれる形でヨチヨチ歩きをしている。 「ご、御子息……か?」  声をかけてみるが反応はない。  慌ててゴミを退けていくと現れたのは変わり果てた姿の御子息の姿があった。  思わず息を呑んだ。  ライアン様に似た容貌は見るも無残な有り様だ。  ぜっそりと痩せこけた顔に生気がないばかりか全身の至るところに水膨れやら発疹がある。爛れていたり膿んでたりしている。明らかに異常事態であり、それはまさしく虐待されていた証だった。  こんな幼い子にこのような事をするなど正気とは思えない。  御子息が受けた仕打ちを考えるだけで怒りに打ち震えてしまいそうだ。  しかし、私は堪えなければならない。冷静であらねばなるまい。怒りに任せて動くべきではない。冷静沈着であれ、と自分に言い聞かせながら大きく深呼吸した。  全身から悪臭を放つ幼児を恐る恐る抱えあげた。  恐ろしく軽い。  ぐったりとした御子息の生気のなさにゾッとした。まるで人形を抱いているようだ。  御子息を抱いて彼女(母親)の前に立つ。   「エラ嬢!!これはどういうことですか!!!」  私が怒りに任せて言うと彼女は面倒くさそうな表情をした。しかし、私は構わず続ける。 「何故、御子息を放置なさっているんです!!」 「煩いわね。あの子をどうしようと私の勝手でしょう?」 「貴方の子供でしょう!」 「だから何!?その子が魔力無しで産まれたせいで侯爵家を追い出されたのよ?待望の男児でこれで魔力さえ持っていたら私は間違いなくライアンの妻になれたっていうのに!!それを全て不意にされたのよ!!!とんでもない疫病神じゃない!!!」  信じられなかった。  彼女は何を言っているんだろう。そんな理由でここまでするのか? 理解ができない。そもそも、御子息を違法な手段で孕んだのは彼女自身ではないか。御子息は間違いなく母親に望まれた存在だった。だと言うのに……。  あまりの衝撃に言葉が出てこなかった。   「私とライアンの仲を引き裂いた忌まわしい存在よ。その子にもう価値はないわ」  嫌悪感を隠しもせず御子息を見る彼女には侮蔑しか湧かなかった。気持ち悪い。ただただそう思った。吐き気がしてくる。目の前にいるのが同じ人間とは思えない。  これが本当にエラ・ダズリン男爵令嬢だというのか!?  ほんの一年前までは朗らかに笑っていた彼女の面影は今はもう見る影もない。まるで別人のようだ。いや別人格といった方が正しいのかもしれない。  本性がコレだったのか、それとも自暴自棄になった成れの果てなのか、判断がつかないが、これだけは確かだ。  彼女は我が子に対する愛情なんてものは一切ないという事実。  彼女にとって御子息はライアン様と結婚するための道具でしかなかったのだろう。   「……御子息は我々で保護致します」   「勝手にすれば」  御子息を抱えていなければ殴り殺していただろう。  私の我慢も限界に近い。  彼女とこの場所からさっさと退散しなければ……。  ん?  そう言えば、御子息の名前を聞いていない。   「エラ嬢、御子息のお名前は何と仰るんです」 「()()()()よ」 「……私は御子息の名前を聞いているんです」 「だから言っているでしょ?その子の名前は『ライアン』よ。ライアンの息子。ライアン・ジュニア」  我が子に自分の名前を付ける親はいる。  特に貴族などに多い。    ……多いが……それはミドルネームとしてだ。  彼女のこれまでの所業を考えればこの名はあまりにも酷すぎる。  これはライアン様だけじゃない。御子息に対する冒涜行為だ。許せない。だが……今はその憤りを抑えなくては……。怒りに身を任せるな。  私は彼女を冷たく睨みつけるだけに止めた。    
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