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46.従姉side
のどかな田舎町。
ここは王都と違って無責任な正義に酔う連中はいない。目の前にいる男を除いて――
「こんな所まできて何のよう?」
「いや……その……デイジーがこっちに移住したって聞いたからさ」
「そう。で?用件は何?わざわざ王都から遠いニシゴリ子爵領まで来た理由があるんでしょ?」
「あ、その……デイジーがニックと結婚したって噂で聞いたんだ。本当か?」
「本当よ。それがどうしたの?」
「なんでだよ!!俺達結婚の約束してただろ!!?」
メイソンの言葉に私は呆れるしかなかった。
「それ何時の話?だいたい、私達はもう別れてるじゃない。結婚も何もないでしょう?」
「俺は別れたつもりは無い!!」
こいつ何言ってんの?
別れた気はない?
あんなことをしておいて?
「デイジー!一緒に戻ろう!!」
本当に人の話を聞かない男だわ。
ま、だからあんな記事を書くことができたんでしょう。
「バカなの?私はニックの妻なの。既婚者なの。分かる?だいたい、別れたつもりがないとか今更何言ってんの?私と母さんを商店街にいられないようにしておいて」
「あ、あれは!!!」
「なに?あんたのせいじゃないって言うの?それとも新聞に載ったのは編集長が勝手にしたことだとでもいうつもり?私が友達に白い目で見られたりハブられてたのあんたも知ってたでしょ?知ってて無視してたでしょ?」
「そ、それは……」
俯いたメイソンはまるで捨てられた子犬のようだった。
刑事の息子で正義感の強いメイソンは子供の頃からリーダー的な存在で女子にモテていた。新聞記者になったのだって父親とは違う形で正義を追いかけると言ってたっけ。
だから、そんなメイソンが一言いえば私なんて友達から除け者にされるなんて直ぐだった。
もっとも、女達の殆どがメイソンと付き合っている私を妬んでいたから遅かれ早かれこうなってたのかもしれないけどね。女の友情は男で壊れるっていう典型で笑っちゃったわ。
「ま、あんたは昔からあの子に気が合ったからね。何?あの記事もあの子に頼まれて書いたの?未来の侯爵夫人をイジメ抜いた親戚母娘だって?冗談じゃないわよ!!!」
「デイジー……俺、知らなくて……友人達も同じでさ……」
その言葉にピンときた。
どうやらメイソンや他の元友人達は真実を知ったんだって。そりゃそうよね。当時、大人たちは私達母娘に気を使って子供達にあの騒動を話す事はなかったもの。
皆が知らなくても当然か。
「なに?親にでも聞いた?」
「あ、ああ……」
「なら分かるでしょ? 私や母さんがあの子を『普通の女』になるように必死だったのを! なにが虐待よ!! 極悪非道な伯母親子ですって!? 冗談じゃないわ!!! 私達が厳しく躾けないとあの子直ぐに膝丈上のスカートを穿いて素足で野原を走り回るような子だったのよ!?」
「で、でもその……子供の頃の話で……」
「あんたバカなの!?親から聞いてたんじゃないの!?あの子の母親が私の父と店の金盗んで出奔したってこと!!!」
「いやその……聞いたけどさ。でも……エラのせいじゃない訳だし……」
「そうね、あの子のせいじゃない。でも、それで納得する人がいる?あの子は母親にそっくりなのよ?嫌でも昔の事が蘇って来るわ!それに、あの子の母親が誘惑してたのは父だけじゃない筈よ」
「え?」
驚くメイソンに呆れ果てた。
それと同時にこの男はジャーナリスト向きじゃないとも理解した。察しが悪過ぎる。父と叔母の事は商店街の大人達は全員知ってる。それでもこの話を子供にできるのは母親だけ。父親?絶対にできないでしょうよ。だって叔母に貢いでいた連中だもの。体の関係になったのは数人程度らしいけどその中にメイソンの父親も入っていた。
「あんた、早く王都の家に帰った方が良いんじゃない?」
「はっ?」
「叔母の話をしたんでしょう?自分の母親の顔見なかったの?」
「え?何時も通りの母さんだったぜ?デイジーと女将さんに酷く同情してったっつーか……その……」
「やっぱり、あんた記者にむいてないわ」
「どういう意味だよ!?」
「叔母と関係してた男は私の父親だけじゃないってこと。あんたの父親も一緒。刑事の癖に不倫してたのよ。母親は知ってるでしょうね。そのこと。私や母さんが必要以上にあの子に厳しかった理由もそこにあんの。商店街の殆どの男をダメにしていった悪女が残していった娘が無事にいられるはずないでしょ?私達母娘の手前、手出ししてこなかっただけ。しかも自分の息子が同じ轍を踏んだとあれば平静にはいられないでしょうね」
絶句するメイソンを残して私は家に入った。
私の言葉を聞いてショックだったのかその後、彼は二度と姿を見せることはなかった。
風の噂で王都のベテラン刑事が妻に刺されたと聞いたけど特に何も思わなかった。
糟糠の妻を裏切った報いが二十数年後に返ってきただけだから自業自得よね。
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