47.従姉side

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47.従姉side

「おかえりなさい」   「ただいま」  笑顔で帰ってきた夫を抱きしめた。  夫はいつも通り優しく抱き締め返してくれる。ただそれだけなのにとても嬉しくて幸せだった。  もう、あの時の事を思い出すことも少なくなった。   「今日は早いのね。仕事は大丈夫なの?」  夕食後のお茶を楽しみながら尋ねると、夫が微笑んだ。   「ああ。明日は休みを取った。デイジーと過ごしたくてね。それと、お腹の子がママに悪さしないか心配でさ。最近元気がいいみたいだから」   「ふふ。あなたに似た活発な子になるんじゃないかしら」   「そうだね。男の子なら冒険者に憧れて女の子なら可愛い服を沢山着せてあげたいな」  夫と過ごす幸せな日々。私は本当に幸福だった。  あの時、ニックを選んだのは間違いじゃなかった。    私の家は最初からパン屋だった訳じゃない。  元は菓子屋。  父が腕の良い菓子職人で両親は仲の良い夫婦だった、と商店街の婦人会のおばさん達が話していたのを聞いた事がある。私の父の記憶は後ろ姿だけ。  両親と叔母と従妹。  とっくの昔に家庭は崩壊していた。  父が家のお金を盗んで叔母と駆け落ちしたのは四歳の頃だ。  あの子には母親の記憶すらない。  叔母のせいで家庭を滅茶苦茶にされた家、恋人や夫に裏切られて自殺した女性だっているのにあの子は何も知らない。きっと今も何も知らないで過ごしてるんでしょうね。  そう言えば、あの子には女友達が一人もいなかった。元々活発な方で家の中よりも外で遊ぶ事を好む子だったから男友達は直ぐにできたみたいだけど。でも、今思えばそれが余計に叔母を連想させたのかもしれない。叔母の被害者の女性達の神経を逆撫でしたように思う。叔母の事を良く思っていない人達ばかりなんだもの。  母さんが必要以上にあの子に厳しかったのもそれが原因だった。  誰もが母さんや私に同情してくれていたけど、あの子の事は別に考えていた筈だもの。  あの子が実の父親だっていう貴族に引き取られていった時は心底ほっとした。  ガラの悪い男連中はあの子が年頃になるのを今か今かと待ち構えていたもの。あの子は気付いていなかっただろうけど何度か店に歓楽街のお偉いさんからスカウトに来てた。一際目を引く美少女で、叔母の一件は有名だったから()()()()()()があの子を狙ってた。 『母親によく似た綺麗な娘さんだ。店に出したら直ぐにトップになれるさ』  ニヤニヤしながら言う男達。  歓楽街からの誘いなんて娼婦一択。  母さんがその都度追い帰してたのをあの子は知らない。意地悪な伯母とでも思ってたんでしょうね。守られている事も知らないで……。    ――部屋は他にもあるのにどうして使っちゃいけないの?  その部屋は元父親とあんたの母親の部屋よ。不貞を働いていた部屋を使わせるほど鬼畜じゃないのよ。    ――なんで私は屋根裏なの!?暑いし寒いわ!!  他に部屋が無いからに決まってるじゃない。でも、本当の理由は年頃になったあんたが他所の男を部屋に連れ込まないようにするためのもんよ。婦人会のメンバーは年々叔母に似てくるあんたの日頃の行動に目を光らせてるんだからしょうがないでしょ!  口の軽いあんたに自室を与えたら次の日には街中の人間が知ってるんだもの。  うちの店はパン屋であって娼館じゃないのよ!!  ――私ばっかり古い服だなんて……。  あんたが派手で短い丈のスカートを好むせいでしょ!  娼婦と間違われるわ!!  何度、怒鳴ろうかと思ったか知れない。  貴族の娘になってもう二度と会わないと思ったっていうのに。本当、運命って分かんないもんだわ。あの子が母親と同じような事をするなんてね。  人の物を欲しがるのは母親譲りよ。    
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