魔法少女虚木シイナとそのコスプレをする幼なじみと幼なじみの家族についてのいくつかの挿話

12/12
前へ
/13ページ
次へ
 みはるは包帯を巻いた腕でみふゆを抱きしめ、だいじょうぶ、と言った。 「私もだいじょうぶ。お姉ちゃんもだいじょうぶ。怖くない、なにも起きてない。だいじょうぶだよ」  その声としぐさにこめられたたしかな愛情に、俺は言葉をなくした。  みはるはそんなことしないと思っていたのだ。  みふゆのことを、心の奥底で嫌っていると思っていたのだ。  だいじょうぶ。  だいじょうぶ。  みふゆの髪を優しく撫でながら、みはるはいつまでもその言葉を繰り返した。  しだいにみふゆの呼吸が落ち着いていった。  激しくもがいていたみふゆが静かになり、だらんと両手を垂らして、みはるの手の中で動かなくなった。  だいじょうぶ。  だいじょうぶ。  そうなってからもしばらく、みはるは繰り返していた。  時計の針は、いつのまにか三十分以上の時が経過していることを示していた。刑事たちがいつ帰ったのか、俺は気づかなかった。  みはるが俺の眼をみて、うなずいた。  みはるから受け取ったみふゆの身体は、俺の腕のなかで人形のように動かなかった。みふゆの眼はガラス玉のようで、どこにも焦点があっていなかった。  それでもみふゆはおだやかな顔をしていた。もう、さっきのような危機的な状況ではない、一目でそれがわかった。  安心のあまりその細い体を強く抱きしめそうになる自分を抑えて、俺はただみふゆを支えていた。 「ちょっと、疲れちゃった」  そう言って、ぼふっ、と、みふゆは枕のうえに頭を落とした。 「すごいなおまえ。驚いた」  天井をみあげながら、みはるは答えた。 「生まれた時から妹ですから、これくらいはね」 「ありがとう、助かった」 「圭ちゃんも、もうちょっとしっかりしないと」 「はい、すいません」  俺があまりにしおたれて見えたのだろう。みはるはクスリと笑った。そしてまた、内にこもるような表情になった。 「ふだんあんまり意識しないけど、私、お姉ちゃんのこと好きなんだ」  そう言った。 「俺も、みふゆのことが好きだ」 「そうだね」 「でも、好きなだけじゃダメなんだな」 「そうだよ」  そう簡潔に言ったみはるの声は、どちらかと言えば優しかった。  そして、みすずさんが医師と看護師と一緒に帰ってきた。ナースコールを押したのでは呼べない、みふゆの担当医だった。  みすずさんが出ていったのも、俺は気づいていなかった。 「すいません。もう、だいじょうぶみたいです」  みはるが言った。  感情のジェットコースターが減速して、ゆっくり定位置にもどる。  そのとき俺はそんな気分だった。  ふらっとしたと思ったら、天井が見えた。  気づくと、みすずさんの腕が俺を、そしてみふゆを、支えていた。 「あら、圭ちゃんも重くなったね」  みすずさんの顔が、すぐそばで笑った。           
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加