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今日はとてつもなくいいものを手に入れた。
今までで一番と言っていいほどの上物だ。
蛭川は手に持った人工知能を眺めた。
葬儀屋を初めて早二○年。
安い葬儀屋やネットワークを駆使した葬儀屋など、様々な業態が参入してきた。おかげで月に一件も仕事が入らない時もあった。
組織化している葬儀屋に登録をして、おこぼれをもらって凌いだこともあった。
人が死ぬことを待つという葬儀屋の仕事は、簡単に営業がかけられない。受け取られ方によっては、早く死んでくれ、と言っているようなものだ。
ひと仕事終え、ビールを喉に流し込む。
緊張していた体から力が抜けていく。
テーブルに投げ出してあった携帯を取った。画面を開きスケジュールを確認する。
明日と明後日は葬儀仲間のお通夜と葬儀のお手伝いが入ってる。今のところの休みは明明後日だ。
仕事柄いつ仕事が入るかわからない。夜中だろうが、雪降る日だろうがお構い無しで連絡は来る。人の死はこちらの都合を考えてなどくれない。
「査定どれくらいつくかな」
今日収穫した人工知能の入ったグレーのケースをつまんだ。何となくルームライトに透かせる。中が見えるわけではない。手持ち無沙汰で何となくかざしているだけだ。
「先生に連絡しておくか」
嬉しいことが舞い込んできた時の、誰かに話したい衝動にかられた。別に今すぐ誰かと連絡をとる必要は全くなかった。しかし誰かに話したい。
先生
大変いいものが手に入りました。近々伺いますので、その節はよろしくお願いします。
送信ボタンを押した。
残りのビールを飲んでいる時、先程先生に送ったLINEが気になって携帯を開く。
わざわざ今連絡しなくていい。まだ既読はついていなかった。
一度口外したからか、少し満足感があったので、先程のLINEの送信取消をした。
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