ダブルブースト

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翼は自宅のテーブルの上に置いたツヤのないグレーのケースをぼんやり眺めていた。 今日告別式から持ち帰った、先輩の人工知能だ。先輩が培ってきたものがそこに凝縮されている。あるいは、先輩の体を大きく変化させた優れた頭脳を持っているそれは、とても不気味な存在に感じられた。 得体の知れない何かを自らの意思で持ち帰り、自宅に招き入れてしまったような感じがした。 持って帰ってきたのはいいものの、果たしてこれをどうすればいいのだろうか。自分の人工知能は既に装着されている。取り外して交換してください、というのは浅はかな考えだ。だれかれかまわず頼めることでは無い。 そもそも、自分の人工知能が取りはずされたとしたら、いったいどこへ行ってしまうのだろう。 じっとりとした不快な汗が滲み出る。 何となく携帯を触る。 人工知能、移植、新、合法、二つなどと入力しながら何度も検索した。 するとある一つのサイトにたどり着いた。 「人工知能のクリアリング賜ります」 人工知能のクリアリングの話は聞いたことがある。自ら学び得たものが増えすぎて、それを維持するためのエネルギーが莫大になってしまうため、一部不要なデータの削除を行うことだ。 どこからどこまでをいらないデータと呼ぶかは難しい気がする。 そのサイトのページの下の方に小さく書かれた「その他各種オプション」 各種オプションとはどんなものなのだろうか。もしかしてコレを持ち込んだら…… 時間を置いてもいいこと無いだろう。人工知能はナマモノではないにしろ、不思議な物体に感じる。人間から切り離された時間が長くなるとダメになってしまうような気がした。 病院ともクリニックとも書かれていないが、果たしてどんな場所なのだろうか。予約して行ってみて、あまりに怪しければそのまま帰って来ればいい。 そう思いながら次の休みの日に予約を入れた。
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