ダブルブースト

ここのところ翼は調子がよかった。
自分の記録ももちろんだが、日々の動きが軽い。その分気持ちも軽くなって頭も冴えている気がした。しかし成績は横ばいなので、頭がスッキリしてるだけで良くはなっていないようだ。

しかし今の成績では正直満足出来ていない。もっとみんなから注目されるような実力をつけたかった。

そんな矢先、国体で一位を取ったことのある、一個上の先輩が事故で亡くなったという知らせが舞い込んだ。
突然の訃報だった。
仲間内と海水浴に行っていて溺れてしまったようだ。本来遊泳禁止の場所で海水浴をしていたところ、離岸流に流されてしまった。
救助隊に引き上げられたが心肺停止で病院に運び込まれ、三時間後に死亡した。

その先輩を一つの目標にして頑張って来た翼にとって、とても大きな出来事だった。後輩の面倒みが良く大好きだった。だからこそ絶対抜かしてやるという気持ちになっていた。

大好きだった先輩の告別式に参列した。最後をしっかり見送ろうと思い、お通夜ではなく告別式を選んだ。
久しく着ていない礼服のズボンのポケットになにかあるのに気がついた。出してみると真っ黒なUSBだった。

こんなところにあったのか。
趣味で撮っていた昆虫の写真のデータだ。
容量が大きくて値段が張るので、なくした時にしばらく探した。残念ながら見つからず、断念して新しいものを購入した。データ自体はパソコンに保存してあったので問題なかったが、懐に大きなダメージをおった。

ひと通りのことが終わり、会場の周りや祭壇に飾られている生花を棺に詰め込むという。
大きな花を両手に取った翼は、先輩の顔周りを綺麗に彩ろうと頭部に向かった。