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ヤスシは意味ありげにメガネを外す。あまりかっこいいとは言えない顔が露わになる。沈黙が少しだけ二人の間に流れた。
俺をまっすぐ見るヤスシ。その瞳は小さい。黒いふたつの点が俺を見つめている。
「愛してる」
「は?」
「ほら、嬉しくないでござるな?」
ヤスシはまたメガネをかけ、くいっと持ち上げた。
「愛って、そんなすぐに手に入るものじゃないでござるよ」
いきなり言われて、俺はぽかんとした。オタクはスマホを意味ありげに机に置いた。ゲームの画面が映っている。二次元の、黒髪ツインテールの女の子が俺を見つめている。
「ミオちゃんからの『愛してる』は、拙者三年もプレイしてるのにまだなのでござる……課金もしてるのに、なのでござる。それだけ言葉の力は重いものでござるよ」
「ミオちゃん、可愛いでござろう?」なんてヤスシは笑う。お世辞にも俺は可愛いとは思えなかった。俺は三次元しか好きじゃないから。
でも、コイツは三年も愛し続けているのに「愛してる」って言ってもらえないのか。
「きっとヒロキ氏は手っ取り早く『愛』がほしいのでござろう?」
「……そうかも」
「『愛してる』って言葉が重いのは、きっとそこまでの過程っていう膨大な時間も含めているからなのだと、拙者思うのでござる」
ヤスシはそこまで言うと「拙者齢20にして愛を知るのナリー!」と少し大きめの声で言った。隣の女生徒がこちらを見てひそ、ひそと話している。
「あはは。つまりヒロキ氏、拙者が言いたいのは」
「わかった」
「……お? そうでござるか。拙者とミオちゃんが何か役に立てば良かったでござる!」
にんまりと微笑むヤスシ。
「それでもってでござるな、ヒロキ氏。最近公式供給が多くてミオちゃんへの愛が止まらないのでござるよー!」
オタクはメガネの奥の目をきらきらと輝かせている。すぐいつもの会話に戻った。
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