空白を繋ぐ。

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 母の日に、息子から手書きのメッセージカードと、折り紙で作られた歪な形の花をもらった。  おそらくカーネーションを作りたかったのであろうそれは、うまくいかずに端が少しぐちゃぐちゃになっている。 『お母さん、いつもありがとう。これからもよろしくね! けんすけ』  メッセージカードというにはいささかお粗末な、その辺にあった切れ端のようなペラペラの色紙。そしてその中心に書かれた、普段口にして言われることのない感謝の言葉。  クレヨンで書かれたへたっぴな文字も、息子がわたしのために一生懸命書いてくれたのだと思うと、それだけで愛しく感じてしまう。  一人息子の健介は、健康な子に育つようにと願いを込めたその名の通り、大きな怪我や病気をすることもなく元気に生まれ育ってくれた。  少し気弱なところもあったけれど、心優しく可愛らしい健介は、わたし達夫婦の宝物だった。わたしは健介のためなら、なんだって出来た。  けれど、一昨年夫を亡くして、わたしは穏やかな暮らしから一転、家事に仕事に子育てにと駆け回る日々を送ることになった。  慣れない仕事を終え家に帰る頃には草臥れて、重たい身体を引きずりながら最低限の家事をこなし、明け方近くなってようやく寝室を覗き、そっと息子の寝顔を眺める日々。  そんな毎日は元々器用ではないわたしにとって、とても大変なことだった。  けれどそんな極限状態の疲れも、仕事終わりにテーブルに見つけたこんな細やかな幸せで回復するのだから、子供というものは本当にすごい。  わたしは紙のカーネーションとメッセージカードを大切に撫でて、テーブルの見える位置に戻し一息吐く。 「ふふ……大変なことも多かったけど、こんな風に言ってもらえるなら、これからも頑張らなくちゃね」  明日は久しぶりの休みだ。朝ごはんは、健介の好きなハンバーグとオムライスにしよう。  それから、近頃あまり出来ていない細かい家事もこなしてしまいたい。明日は天気もいいらしいし、健介がごはんを食べている間に、久しぶりに布団を外に干そうか。  ああ、そうだ。明日は朝の内にゴミ出しもしておかなくては。  わたしは頭の中で明日の予定を組み立てながら、健介の部屋へと向かった。  まだ夜中だ、健介はきっと起きているだろう。
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