1. 秋のキャンプ

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 時は遡ること二時間前ーー。  俺たちは九月初めの秋のクラスイベントで、パリの野外活動センターにキャンプに来ていた。隣町の共学の高校の二年生もたまたま同じ日にいて、緑の芝生の上は男子に飢えた女子たちの出会いの場になっていた。  二校のニクラスーー総勢六十人ほどが合わさって歌やゲームなどのレクリエーションをしたあとは、自由時間になる。他の学校の生徒と交流してもいいことになっているから、クラスメイトたちの大半はこぞって他校の男子たちに声をかけにいく。  ティファニーはついこの間までいつも一緒にいたローズとアンナとは離れ、彼女たちのようにいつもよりオクターブ高い声で男子たちと交わろうとはせず、隅っこでメグと一緒に持ってきた漫画を手に話をしている。夏休み前に三人の中で何かトラブルがあったのか、ティファニーは最近仲間外れにされている。聞こえよがしに悪口を言われたりして、居心地の悪い思いをしているようだ。  レクリエーションの後班ごとに夕ご飯を作る。班長は俺だ。立候補した理由は、好きなメンバーを自由に選べるっていう特権があるから。班決めのHRで一番最初にエイヴェリーを選んで、次に親友のアレックス、三番目にメグ、四番目にティファニーを選んだ。クラスで孤立していて不憫に思ったからだ。  何でメグを選んだかって、特別仲が良かったわけじゃないけれど、彼女がいるだけで雰囲気が和むからだ。  班決めの日、休んでいたクレアを入れるかどうか悩んだ。皆クレアは舞台の仕事で忙しくてキャンプに来られないと思っていたから、どの班でも敢えて外していたのだ。  エイヴェリーとクレアは、この頃は付き合ってるんじゃないかと噂されるくらい親密だ。超人気舞台役者のクレアは多忙な日々を送っているが、この頃はエイヴェリーに会いたいがために最後の時限だけ登校したり、放課後ひょっこり教室にやってきたりする。    前に二人が裏庭で手を繋いで歩いているのを見た。顔を見合わせ笑い合って、今にもキスをするんじゃないかとそわそわしたほどだった。  そんな時俺は、焦ると同時に激しく嫉妬した。クレアが羨ましかった。俺はクレアよりたくさんの時間をエイヴェリーと過ごすチャンスがあるのにライバルより積極的になれない。告白も先を越されたし、二人で遊んでいても緊張してろくに話もできない。この頃は特にそうだ。双子の妹のシエルには沢山協力してもらっているのに、臆病な自分が情けなくなる。  エイヴェリーが休みの日、クレアは見るからに寂しそうだ。逆にクレアが急に休むと、エイヴェリーが彼女を探し回っていることもある。  二人は否定をするけれど、俺から見たらくっつくのは時間の問題に見える。  クレアを班に入れたのは、エイヴェリーに念の為に入れてやれと言われたからだ。もしもクレアがキャンプに参加した時、どの班にも入れなかったら可哀想だからと。 「クレアも私たちと一緒の班になりたいって言ってたの。入れてあげましょう」  彼女のその言葉がなかったら、俺はクレアをメンバーに入れていなかったかもしれない。つくづく自分って嫌な奴だと思う。  夕食の準備をしていたら、隣の班のアンナがやってきた。肩に青いクーラーボックスをかけている。担任に飲み物を配れと頼まれたらしい。  ティファニーはアンナと関わりたくなさそうにその場からいなくなった。 「飲み物何があるんだ?」と訊くとアンナはボックスの蓋を開けてみせた。コーラやミネラルウォーター、スポーツドリンク、オレンジやグレープなどのジュースがある。  コーラ四本とグレープジュースを取り出した。「サンキュー」とお礼を伝えると彼女は愛想良く笑って他の班に配りに行った。
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