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2. 料理大会
「何かあったのか? アンナたちと」
俺はアレックスとメグを手伝ってテント張り作業をしていたティファニーに尋ねた。
クレアは向こうのアスレチックがあるエリアで、他校の生徒たちに囲まれて身動きが取れなそうだ。エイヴェリーもきっとあの輪の中にいるに違いない。
「元々あいつら、私のこと好きじゃなかったみたいだし? アンナが元カレ引きずってて、元カレと私が話してるのが気に入らなかったらしいんだけど……又聞きだからよく分かんないわ」
ティファニーがあんまり投げやりに言うものだから、俺は「そっか……。なんか大変だな」と答えたきり、それ以上聞かなかった。
「てか、エイヴェリーをクレアに渡したままでいいわけ? せっかく同じ班になったんだからさ、もうちょい積極的に行きなよ」
「分かってるよ、うるせーな」
ティファニーに言われなくたって、俺がクレアに遅れを取ってることは分かりきってる。多分、誰の目から見ても。
「オーシャンはさ、クレアよりチャンスいっぱいあるじゃん? 生かさないと駄目じゃない?」
バタフライナイフのようなティファニーの言葉が、グサッと胸に刺さる。これと全く同じ台詞をシエルからも言われていた。
クレアは仕事でなかなか学校に来られないから、エイヴェリーと会える機会も俺よりずっと少ない。それでも短い時間を有効に使って少しずつ仲を深めている。
何より、クレアはエイヴェリーに去年のクリスマス前に告白をしているのだ。気持ちを伝えているのといないのとでは、全く印象が違うだろう。
対して俺は、エイヴェリーと仲の良い双子の妹の協力がなければ彼女と二人きりで遊ぶこともできず、うじうじ悩んでばかりで告白すらできていない。
「オーシャンは、こう見えて結構ヘタレなの」
向こうからアレックスが茶化すように言うもんだから、思わず「うるせーよ!」と言い返してしまう。
幼い頃から女っ気がなく、今年の春頃までは中性的な印象だったアレックスはこの頃やけに女らしくなった。短かった髪は肩よりも伸び、秋の陽射しを浴びて金色に輝いている。クレアに負けず劣らず色白だし、灰色がかった切れ長の青い目の彼女は客観的に見て綺麗な方だと思う。他校の男たちが放っておかなそうだ。
テント張りが終わった後は、班ごとに夕食を作る。
隣の班のレンカとケイティは二人で焚き火の上に置いたフライパンの上でタンドリーチキンを作りながら、「ケイティ、できたから味見してみて。あーん」「うん、美味しい♡」なんてバカップルみたいなことをしている。いや、実際バカップルなのだ、奴らは。夏休みから付き合い出したらしいから、今が一番楽しい時だろう。
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