第一章 5

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「てことは一緒の学年だね。篤史、でしょ。先生ね、授業中でもたびたび篤史くんの話をするんだよ。篤史くんが巣立つまでは先生、独身を通すんだって。あ、結婚する気はないって言ってたっけ、でも先生モテモテでねー、この前も女子からラブレター貰ったんだよ。けどね、毎回、採点して本人に返すらしい。文法がおかしいから三十点とか、名前がないから0点、とか」  語る少女を篤史はじっと見据えた。リアルタイムで兄を知る口調だ、そしてその口はいつまでも閉まらず学校での兄を語り続けた。であるから篤史は崢を見やった。その目は喋る少女を笑いながら眺めていて、少女の口が閉まった一瞬の隙を見計らって篤史は、 「妹かと思ったけど」と言った。「それか姉ちゃんかと」  崢の目が篤史を見る。再びその目は少女のほうを見て、 「姉ちゃんだってさ」  可笑しそうに笑った。 「おまえ俺より老けて見えるらしいぞ」  おまえ、である。随分と距離が近いのだ。現に崢はベッドで眠っていたわけだし、そこに少女はいた。崢の親は不在のようだ、であるからアパートの一室に二人きりであったわけだ。 「あんたより大人っぽいってことだよ」  ふふん、といった具合に少女は鼻で笑う。  あんた、か。やはり距離が近い。緊張感がないとの表現が最適か。  崢のほうに視線を戻す。すでに彼は篤史の目を見ていた。その目がふっと笑ったわけだが、それは目が合う一瞬前まで笑わず篤史を見ていた、そういうことになるのか。 「えなだよ」崢は言った。「魚飼育の代役だ。きょうだいではない。全然似てねえだろ」 「あたしら一緒のクラスなの」  えな、との名の少女がそう付け加えた。
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