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「てことは一緒の学年だね。篤史、でしょ。先生ね、授業中でもたびたび篤史くんの話をするんだよ。篤史くんが巣立つまでは先生、独身を通すんだって。あ、結婚する気はないって言ってたっけ、でも先生モテモテでねー、この前も女子からラブレター貰ったんだよ。けどね、毎回、採点して本人に返すらしい。文法がおかしいから三十点とか、名前がないから0点、とか」
語る少女を篤史はじっと見据えた。リアルタイムで兄を知る口調だ、そしてその口はいつまでも閉まらず学校での兄を語り続けた。であるから篤史は崢を見やった。その目は喋る少女を笑いながら眺めていて、少女の口が閉まった一瞬の隙を見計らって篤史は、
「妹かと思ったけど」と言った。「それか姉ちゃんかと」
崢の目が篤史を見る。再びその目は少女のほうを見て、
「姉ちゃんだってさ」
可笑しそうに笑った。
「おまえ俺より老けて見えるらしいぞ」
おまえ、である。随分と距離が近いのだ。現に崢はベッドで眠っていたわけだし、そこに少女はいた。崢の親は不在のようだ、であるからアパートの一室に二人きりであったわけだ。
「あんたより大人っぽいってことだよ」
ふふん、といった具合に少女は鼻で笑う。
あんた、か。やはり距離が近い。緊張感がないとの表現が最適か。
崢のほうに視線を戻す。すでに彼は篤史の目を見ていた。その目がふっと笑ったわけだが、それは目が合う一瞬前まで笑わず篤史を見ていた、そういうことになるのか。
「えなだよ」崢は言った。「魚飼育の代役だ。きょうだいではない。全然似てねえだろ」
「あたしら一緒のクラスなの」
えな、との名の少女がそう付け加えた。
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