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三つの墓石
グアア……グアア……、と鳴き声をあげながら、小竜と呼ばれている、翼を持った小型の竜が空を駆けている。黒く硬い鱗模様の皮膚が日光を反射して青く輝き、キョロキョロと動く黄金色の瞳、時折ちらりとのぞく牙や爪が鈍く光っている。
そんな小竜を眺めるように、自然豊かなとある山の中腹に、三つの墓石が並んでいる。そこへ、少ない髪を耳の上辺りで無理矢理二つ結びにした老婆がやってきた。
「……我の話し方も、ようやく年相応になってきたようじゃ。」
その老婆は呟くと、手にしていた花束を乱雑に投げ置いた。
「……これがもう最後になるじゃろう。さすがの我も老いには勝てぬ。」
老婆は一人、そう言いながら墓石の前にどっかりと腰を下ろす。
「お前さんの最後の『片喰の義』からもう半世紀……。お前さんが逝ってから約三十年。もう片喰の義を必要とする者はおらぬ。それが良いことなのかどうか、わからんがなあ。」
老婆は薄く笑った。それからしばらくはただぼんやりと墓石を見つめ、頬をなぜる風に、草木の匂いに、沈みゆく陽の光に、ゆっくりと目を閉じた。そして唐突に帰るか、と呟いて腰をあげた。
「この景色も見納めじゃなあ。……次に会うのはあの世じゃ。……またな、リフィア。」
老婆が後にした三つの墓石に刻まれている名は、『小竜エイル』、『小竜ミト』そして『リフィア・ヨトン』。
これは、竜人族と呼ばれる家に生まれた少女リフィア・ヨトンの、愛と死を理解する物語。
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