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死神の副業②
ホリデイは、その謎めいた菫色の瞳をきらめかせた。
「最近ちょっとした副業を始めてね」
「副業?」
「流行ってるんだよねぇ、ここでも。降霊会ってのが。貴族やら金持ちやらの新たなお楽しみさ。人気の霊媒師には気前よく謝礼をはずむんだぜ」
「死神のあんたが霊媒師! 呆れた! それと今日の用件と、どういう関係があるのよ?」
「今月の末に入ってる予約なんだけどね。ちょいとわけありで、私は行けない。行かないほうがいいんだ、私は。代わりを務めてもらえないかねぇ?」
半端者のあんたが、正統な魔の使い手であるこのあたしに副業の代役を依頼するなんて、よくもそんな図々しい態度に出られるものね――とミリセントは言おうとして、思いとどまった。面白い話なら、乗ってみてもいい。
「それだけじゃ返事のしようがないわ。もっと詳しく話しなさいよ」
「降霊会の開催場所は花扇っていう貴族の邸なんだけど。そこの末娘が、先週よその貴族の別荘で開かれた降霊会にも参加していてね。それとなく吹き込んでおいたんだ。お嬢さまの女学校時代のお友達、そのうちのお一人は、かなりの霊感をお持ちのようですよ。そういうことも私にはわかるんですよ、ってね。堂本伯爵邸での――」
「え?」
「うん。輝長が開いたガーデンパーティで見かけた娘がいてね。彷徨える未練がましい連中を、どういうわけか惹きつけてしまう体質のようでね。その娘を招待するようにと、花扇千賀子嬢に耳打ちしておいたのさ。彦乃ちゃんを必ず招待するように、とね」
「ヒコノちゃん?」
「藤村彦乃。サイモンが何やら興味を示している、あの娘」
「サイモンが興味を示している、って……ひょっとして、とびきり美味しそうだった娘のこと?」
「美味しそう?」
「無防備な感じがして、そこが妙にそそってくる」
「ひぃひぃひぃ」
ホリデイは、発作を起こした喘息患者のような声を漏らした。喜色満面だ。
「無防備な感じ。確かに、ね。で、代役を引き受けてくれるなら、当日よく観察してきてほしいんだ。藤村彦乃がどう反応するか。どう対処するか。人目のあるところでは、少しは冷静になって、死にぞこないどもをうまくさばけるのか、無理なのか。そこを見極めてきてほしいのさ」
死神の菫色の瞳を見つめながら、ミリセントは急いであれこれ考えた。
ヒコノという娘。ガーデンパーティで、堂本穂波と不思議な火花を放ちあっていた。二人は互いにhealerだということになる。
堂本穂波はサイモンの秘蔵品であり、その秘蔵品のhealerである娘に死神がちょっかいを出すのは、剣呑だ。そうではあるけれど……。
あの娘に関する特別な情報を、サイモンより先にこのあたしが手に入れる。何かの場面で、その情報をサイモンに高く売りつけることができるかもしれない。――悪くないわ、この話。
「代役の件、受けてくれるとありがたいんだけどね。降霊会は月末の土曜日だ」
「どうしようかしら。あたしには何の得にもならない話よね。でも、その日は特に予定もないし……いいわ、引き受けてあげるわ」
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