サンドイッチケーキ②

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サンドイッチケーキ②

「瑠璃子さん、ご苦労なさるかもしれませんわ」  テラスに二人だけになると、千賀子が言った。控えめな声では、ある。 「お姑さまになる堂本頼子さまは、とても怖~いお方だそうですのよ。継子虐めでも有名なお方で」 「ままこ、いじめ?」  千賀子は、眼鏡をかけた顔を彦乃の耳元にぐっと寄せてきた。 「穂波さまにとても辛くあたられた、とか」  ちくっ、と針で指先を刺してしまった。そんな感覚があった。千賀子のふくよかな丸顔から、彦乃はわずかに視線をそらした。 「彦乃さん、観桜会でお会いになったでしょう? 堂本穂波さま。あ~、素敵な方ですわよね~」  蔵田家の家職の男性二人がやってくる。前身頃の左右にボタンがいくつもついたテイルコートに身を包んでいる。それぞれ、お茶帽子(ティーコージー)を被せたティーポットと、茶器の盆を手にしている。千賀子のおしゃべりが止んだ。 「お茶のおかわりをお持ちいたしました」  家職の一人が、冷めたポットとそれまでの茶器を下げ、新たな茶器を並べる。もう一人が、運んできたポットから、亜麻色の地に金糸銀糸で宝づくし紋様を刺繍した繻子のお茶帽子を外して、いれたての紅茶を注ぐ。すべての動作に無駄がない。彦乃は千賀子と、ありがとうございます、と軽く頭を下げる。香り高い湯気が鼻腔をくすぐる。テーブルのお菓子はまだ食べきれないほど残っている。 「冷たいお飲み物がよろしければ、お持ちいたしますが?」 「結構ですわ」  慣れた雰囲気で、千賀子が即答する。 「私も。このお茶をいただきます。ありがとうございます」  こういうおもてなしは帝国ホテル式かしら、などと思いながら、彦乃も答えた。 「ごゆっくり、おくつろぎくださいませ。失礼いたします」  二人の男性は、片づけた物を手にして戻っていった。お仕着せの後ろ身頃にも、テイル部分に装飾ボタンがいくつもついていた。 「堂本穂波さまはあたくしの憧れの君ですわ。占いでは、あたくし、意中の人と結ばれる、と出ていますの。といっても、自己流での占いなんてあてになりませんわね。たぶん、ハズレですわ」  千賀子のおしゃべりが再開される。 「そもそも、穂波さまが再婚されるとは考えにくいんですもの。亡くなられた奥さまと、それはそれは仲むつまじくていらして。奥さまは、ため息が出るほどにお可愛らしい方で。ちょっと神秘的なほどにお可愛らしい。色白でほっそりして。坊やがお生まれになる前は、お二人でうちへ遊びにいらしたことが何度かおありでしたの。あたくしのいちばん上の兄のところへ」  さっき指先を刺した見えない小さな針は、今、胸をちくちく刺してくる。彦乃は冷静ではいられないような心持ちになっている。
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