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第十話 そして現在へと紡ぐ
あれから、幾年が過ぎただろうか。
月代は敬語で喋ることも無くなり、まさに現代の夫婦に近しい夫婦になった。
そして今、月代の腹の中には子がいる。
出産予定日は四月二十七日だったが、それよりも早い四月十九日である今日、月代は産気づいた。
そして日が丸一日経った、二〇〇五年四月二十日。
満月の日の、夜のことだった。
前日の夜から続く陣痛を耐え抜き、月代はかわいい女の子を産んだ。
「入っていいよ。今は疲れて寝ているから、起こさないように静かにね」
お袋はそう言って、部屋を出た。
「お疲れ様。ありがとう」
俺はそう言って、月代の頭を撫で、産まれた子どもをジッと見た。
「かわいい、女の子だよ」
月代は俺の一言で目覚めたのか、息絶え絶えに俺にそう言った。
「そうだな。ありがとう。本当に、ありがとうなぁ」
俺の目からは、自然と涙が溢れ出て来る。
「泣き虫だね。君のお父さんは」
子どもに言い聞かせるように、月代は俺の頭を撫でる。
「ありがとうなぁ」
俺の所に、俺達の所に、産まれてきてくれて。
「名前、どうする?」
月代は起き上がりながら俺にそう聞いて来た。
「あぁ、身体に障るからまだ寝てろ」
出産は車に轢かれたのと同じくらいのダメージがあるらしい。
無理に動かす訳にはいかない。
「名前なぁ」
俺も寝転がって、子どもと月代を同時に見た。
満月が目に入った。
「満月なんてなぁどうだ?」
「ミツキ?」
月代は寝返りを打って子どもの頬を撫でながら俺に呟いた。
「そう、満って字に月で、満月」
俺がそう言うと、月夜は俺と同じく庭を見る。
「凜とした月で、凜月は?」
「凜月ねぇ」
子どもにつける名前だ。そんなに簡単に決められる訳がない。
俺は頭を抱えて悩み混んだ。
「凜とした桜で凜桜は?」
俺が月代にそう聞くと、月代は「それも良いねぇ」と呟く。
「月代は、この子の名前に「月」の字を入れたいかぃ?」
月代にそう聞くと、月代は「う〜ん」と唸る。
「そういう訳じゃないの。目に付いた物を入れちゃってるだけ」
「そうか」
俺はそう言って、月代の頭を撫でた。
「どれも良いねぇ、満月に凜月に凜桜」
二人で数分悩み混み、俺は「二人でせーので合わせてみるか」と言ってみた。
「良いね。そうしよう」
そう言ってから、俺と月代はこの子の眼を見た。
髪は淡い桜のような色、瞳は俺と月代と同じ金。
「「凜月」」
また、二人の声がピッタリと重なった。
「理由はなに?」
「月みたいに、今にも消えそうな程儚いが、実は太くガッシリしてる。俺は、この子に、そんな子になって欲しい」
「良い理由」
月代は「フフ」と笑った。
「あぅあ」
子ども──凜月──が声を出した。
「「これからよろしく。凜月」」
俺達はまた言葉を揃わせてそう言った。
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