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第二話 義賊の妖
昼間から数時間、戌の刻。
既に日は落ち、妖の跋扈する闇へと変わっていた。
俺は、妖となり、昼間とは違い、黒の股引に濃紺色の着物を着て、顔の目元には狐の半面を着け、とある公家屋敷の屋根に立っていた。
「そろそろ行くか」
一人でそう呟いて、俺はわざと人に視えるようにしてから桜原の屋敷に入り込んだ。
一つ足音を立てて廊下を走れば、すぐに誰かが廊下を覗き込み、すぐに「深月じゃあ! 来おったぞ!」と叫ぶ。
「屋根裏には行かすな!」
誰かがヒッソリと、けれども俺には大きい声でそう叫んだ。
「聞こえとるぞ、阿呆が」
俺は大きく、わざと挑発するように叫び、すぐに屋根裏へと入れる穴を見付けた。
屋根裏に入れば、そこにあったのは闇すらも眩い光へと変える金銀の集まりだった。
「なんじゃ、金じゃないのか」
俺は少しガッカリしながら、そこにあった金銀を袖の中に仕舞い、屋根裏からすぐに脱出する。
だが、この家には醜く肥えた金の臭いがする。
「なら、当主の部屋か」
鼻を効かせて、俺は足音と気配を消して屋敷の中を歩いた。
「何処に消えた!」
俺の真ん前で俺のことを懸命に探している武士がいるが、ソイツに「お前にゃ見付けられんよ」とすれ違いざまにかなり大きな声で言ってみた。
やはり反応は無し。
「ほう、此処か」
人の匂いはしない、ただ醜く肥えた金の臭いはする。
人に見えるようにしてから堂々と襖を開けて、俺は部屋に入り、押し入れをガラリと開ける。
「お、お主は深月! 何故此処が!?」
真後ろから人の声がした。人か? 足音なんてしなかったぞ。隠れてたのか。
俺は後ろに振り返って、人かどうかの確認をする。
桜原の主人か。
「阿呆か、こんなに金を貯めおって、醜く肥えた金の臭いが、屋敷の外まで漂っておったぞ」
俺はそう言うと、押し入れの中にあった千両は入っているだろうという箱を幾つも取り出して、得意の空間操術でそれら全てを袖の中に仕舞った。
「では、これにて」
俺はそう言って、縁側に出てすぐにまた人から見えないようにした。
こうなっては、並大抵の人はまず見付けられない。
だから逃げるのも楽なのだ。
俺は広い屋敷の中を駆け回り、山側へと逃げる。
「クソ! 彼奴じゃ! 打てぇえぇい!」
打て。弓矢か。
腕にでもかすったら大惨事だぞ。
「見えませぬ!」
「打てば良いのじゃ! あのような奴獣にくれてやれぃ!」
おいおい、闇雲に打ちゃ良いってもんじゃねぇぞ。
「一回引き返すか」
どうせ人には見えぬようにしてあるんだ。それを最大限生かさねば、俺に親父という妖がいる意味が無い。
「女房に化けるかの」
俺は一つ跳ね、屋敷の屋根に再び舞い戻った。
誰か、良い者はいないか。
屋根の上から見ていると、丁度良い所で女房が通りかかった。
「そなたの姿、しばし借りるぞ」
女房にそう言って、女房を人から見えないようにして、女房に化けた。
どうせ聞こえはしないが、まぁ言わぬよりは良いだろう。
服も女房の物に見えるようにする。
流石に女人から衣服を剥ぎ取る訳にはいかぬからな。
「さて、しばらく屋敷を彷徨いてから帰るとするかの」
一人でそう呟いて、俺はスススと足音を消して屋敷を歩いた。
歩いていると、隔離されているような、一つだけポツリと建っている別棟がある。
中に入れば、人の影が一人だけあった。
影的に見て、此処のお嬢様。姫さんか。
「女房? 珍しいですね、此処に来るなんて」
姫さんはそう言いながら障子を開けた。
姫さんの瞳は、満月のように光り輝いていた。
「義賊様?」
ぱっちりと両目を開いて、姫さんは俺にそう聞いて来た。
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