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「お父さん独りになっちゃうんだからね。ちゃんとご飯は食べて! 何かあったら連絡してね」
「ああ……」
葬儀とその後の諸々の片付けを終えて、帰り支度をする娘たちが、入れ替わり立ち替わり小言を言う。少なくとも登美子のDNAは二倍になって引き継がれたとみえる。主張の強さは種の強さなんだろうか。強烈だ。
台所で冷蔵庫を開け閉めしていた次女の薫が声を張り上げた。
「当分の食材は、お母さんが買い込んできてくれてるから大丈夫そうだけど。お父さん、料理できるの?」
「馬鹿にするな。飯くらい作れる」
私も負けじと言い返す。
「お母さんがちゃんと管理してないとダラダラしちゃうんだから。あっと言う間にカビ生えちゃうよ。男やもめに何とやらッてっさ」
「あー、知ってるわ。『男やもめに蛆がわく』っていうんでしょ!」
京香の声が参戦してきた。
ホントに娘どものズケズケと言う物言いは登美子似だな。
「まだ働いてるんだ。蛆がわく暇もないぞ」
「シルバーさんだっけ? 小学校の登下校を見守ってるヤツ」
少なくとも普段から規則的な生活をしているし、人目もある。そうそう心配することは無いと思うが。
「あ、そうだ。お父さん。葬儀社の人に聞いたんだけどね、お母さんてば最新式の遺影を手配してたんだって。いつの間に? って感じなんだけどカルチャーセンターの終活講座で申し込んでたらしいよ。お父さん知ってた?」
「……ん? いや知らん」
家内がパート仲間との付き合いに忙しくしていたのは知っているが、何をしていたのかなぞ一々気にもしていない。
台所から姿を現した京香は、せかせかと仏壇代わりに遺影と燭台や鈴を配置したサイドボードに近付いて行った。
「なんだ。聞いてたのかと思った」
京香はそう言って家内の遺影を手に取ると、こちらへ持って来るなりくるりと裏返した。
「ほら、ここにマイクロSDを入れるとこがあってね、遺影の額と裏ブタにCPUとかが組みこまれてるのよ」
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