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いつから誰がやり始めたのか、だいたい記憶にある。
盛り上がるアップテンポな曲で、ライブグッズのタオルを持って振り回す、この儀式みたいなものが藍は嫌いだった。
演者のボーカリストやダンサーはいい。
広いステージの上で、メンバーとぶつからない程度の距離を取り、タオルの端っこを持って、まるでヘリコプターのプロペラのように綺麗な軌道を描きながら回すことができる。
しかし……観客の身にもなって欲しい。
前後左右の至近距離には人、人。
そんな回し方をすれば大迷惑だ。
従ってタオルを小さく折るか丸め、人とぶつからないようにしなくてはならない。
結局 “ 大きなタオル団子 ” を持ち、手首を回してるような有様だ。
美しくも何ともない。
そしてこの儀式の後、藍は必ず鼻がムズムズしてクシャミに襲われる。
空気中にタオルの繊維の細かい欠片が舞うのだろう。
ホールには座席はあるものの、バラードなど静かな曲以外は、お約束のようにオールスタンディングになる。
アップテンポな曲は、立ち上がって手拍子をしたり、身体を動かしながら聴くのが楽しい。
でも、もう一度言おう。
だからと言って、タオルを振り回したくはない。
回すなら、サイリウムやペンライトでいいじゃないか。
その方が遥かに美しいのに。
それでも、楽しそうにやってる人が大多数だろうから、大声では言わないし仕方なく流れには乗るんだけど。
オールスタンディングはいいと思う。
もし自分が望まなくても、前列の人が立ってしまえば、壁に遮られ何も見えなくなる。
それもある。だけど……
それより何より、心の奥から湧き上がる興奮。
観客が盛り上がっている事を、パフォーマーに行動で伝える、最大の賛辞だと思う。
ただ40代も半ばになり、2時間以上のライブで立ちっ放しの状態は、少々キツくなって来た。
10代20代の頃とは勝手が違う。
バラードのイントロが流れ、観客達が跳ね上がった椅子の座面を戻し座り始めると、心の中で「やれやれ」という声が漏れる。
情けない話だけれど。
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