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「玲美、気にしなくていいよ。近くには落ちてないみたいだし、後で探すから。ちゃんとステージ見てな」
「でも藍、全然見えないんじゃ……」
「うん、のっぺらぼうだね。でも、これはこれで新鮮……」
「じゃ、これっ!」
玲美が首から下げた双眼鏡を外し、手渡してくれる。
「これ、ピント調整したら見えるんじゃない?」
「そっか。ありがとう! 感謝!」
玲美から受け取った双眼鏡を覗き、ピントを合わせる。
見える! 見えるよ!
視界が戻って来た!
玲美が、どう? と視線を送って来たので、笑顔と親指を立てて返事を返した。
今回は有り難い事に前から3列目が取れたのに、何でそんなに本格的な双眼鏡? バードウォッチングでもするの? それともアキの毛穴まで見るつもり?
……などと誂った事を許して欲しい。
玲美、アンタは神だよ!(アキの次に)
そもそも藍は、いつもはコンタクトレンズをつけている。
しかし3月も上旬のこの時期、花粉症のせいで目が痒いやら痛いやら、レンズを受け付けられない状態だったのだ。
眼鏡ではコンタクトほどの視力は出ないが、ゴロゴロと異物感や痛みを抱え最悪の状態で見るくらいなら、もう諦めて、眼鏡でこのライブに参戦すると決めた。
何で今年はこんな花粉症真っ只中の時期なのか。いつもは年末なのに……。
そうは思ったが、そこは主催者側の事情……仕方のない事だ。
そんなこんなで、今、思いも掛けない状況に陥り、眼鏡で参戦しなければならなくなった事を酷く恨んだ。
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