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「いつものお願いします」
私はまたハンバーガーとストロベリーシェイクを頼んで、トレーをもらって席に行こうとした。すると、
「もう少しでバイト終わるんだけど、途中まで一緒に帰らない?」
「え?」
驚いた。夢みたいだ。ほんとにいいのだろうか。
「う、うん! 待ってる!」
私と草部君は暗い夜道を、私は自転車をひいて、草部君はバイクをひいて一緒に帰った。
「バイク乗るんだね」
「うん。すぐ免許取った。車もいいけど、バイクを運転しているときの一体感が気に入ってるんだ」
「そうなんだ。サークルにバイトに、バイク。なんだか草部君の毎日は楽しそうだね」
「うん。楽しいよ。宮本さんは楽しくないの?」
私はその問いに、悲しく笑った。
「うーん。そうだね。予備校は楽しいとはいえないね。仲のよかった友達は、みんな大学行ってるから、私だけ置いてけぼりみたいなの」
「そっか。でも、妥協をしないってすごいことだと思うけどな」
「そうかな。そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう」
私は草部君の一言で一気に嬉しくなって微笑んだ。
「家、近いみたいだから、送っていこうか?」
本当はすごく嬉しい。でも、草部君とこれ以上長くいると心臓がもたない気がするし、彼女でもないのに送ってもらうのは申し訳ない。
「ううん。いいよ、大丈夫。自転車だし。心遣いありがとう。じゅあ、またね」
「うん、また」
傘に雫が当たる音をぼんやりと聞きながら、私はバスを待っていた。雨の日はすべてが灰色に見える。自転車なら、マックによれるのに、残念。でも、初めて会ったときもバスだったし、もしかしたら……と思っていると、本当に草部君がバスに乗ってきた。そうか。今日はバイトじゃなくてサークルだっけ? それにしてもすごい偶然じゃない? 私は草部君から気づいてくれるのを待ってみた。草部君は私にすぐ気づいたようだった。
「あれ、宮本さん。今日、雨だからバスなの?」
「うん。草部君は?」
「サークルの帰り」
「雨なのに?」
「室内のテニスコートもあるんだよ」
「そうなんだー。知らなかった!」
「もうすぐ受験だね」
そうなのだ。受験が近い。勉強、一生懸命がんばっているけれど、不安は付きまとう。でも。
「うん。がんばってS大入る」
「うん。応援してるから、がんばって」
草部君からの応援は千人の声に等しいほど力強かった。がんばろう、私。そして、絶対草部君と同じ大学に行くの。
私は草部君効果があってか、みごとS大に合格した。
草部君はお祝いと称してバリューセットを奢ってくれた。
「ごめんね、たいしたお祝いじゃなくて」
「ううん。とても嬉しい。草部君の心が嬉しいよ」
「そう? ならよかった」
草部君はちょっと照れたように笑った。
「そうだ! 近くにおいしいケーキ屋さんがあるんだ。今日は早めにバイト切り上げるから、一緒に行かない? それともハンバーガーでお腹いっぱい?」
驚いた。草部君とケーキ?!
「女の子は甘いものは別腹っていうの知ってる?」
「じゃ、よかった。もう少しだけ待っていて」
私はせっかく奢ってくれたハンバーガーもしっかり食べて、草部君のバイトが終わるのを待った。
その日食べた大好きなモンブランの味は実は覚えていない。草部君とケーキを食べるなんて。なんだか現実感がなくて、ふわふわした足取りで家路についた。それにしても、ケーキ屋さんかあ。草部君、甘いもの好きなのかなあ。
それとも……。誰か、そう、女の子と行くことがあるのかな。嬉しさ半分と不安半分でその日はベッドにもぐりこんだ。
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