運命の恋

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 入学式も終わり、段々S大の生活にも慣れてきたときだった。私は朋の研究室を訪れた。理系は道路を挟んで向かい側に校舎がある。私は迷いそうになりながらも、なんとかたどり着いて、そこで見知った顔に出会い、驚いた。 「あれ? 草部君? 理学部だったの?」 「宮本さん? どうしたの、こんなところに。文系だったよね」 「うん。高校のときからの友達がこの研究室にいるんだ。あ、朋!」 「あ、宮本!」  応えた朋の瞳が一瞬揺れた。 「今日は授業が早く終わったから、迎えに来たの。邪魔だった?」 「そんなことないよ。もうちょっと待ってて」  朋の言葉に、私は研究室の椅子に座らせてもらい、待つことにした。  すると草部君が声をかけてきた。 「なんだか、よく遭うよね? 面白いほど」 「そうだね。偶然」   私はジンクスを信じてる。偶然も五回起これば運命になる! って。もうすぐ五回じゃない? 運命の恋! なのかもっ。 「宮本、終わったから行こうか」 「うん。ごめんね、せかしたようで。じゃ、行こう、朋」  私は研究室を出るときに、振り返って草部君を見た。 「また時々くるかも。じゃあね、草部君」 「仏文って楽なの?」  草部君の言葉に、私は頭をふった。 「そんなことないよ。大変だよ。ゼミも多いし、レジュメの用意大変なんだから」 「そっか。どこも大変だよね。ごめんごめん」  草部君の笑顔は私を幸せにする。もっと、もっと一緒の時間をすごせるようになれればいいのに。段々心の距離が縮んでいるような気がして、私はわがままになっていってるようだ。でも、好きな人と一緒にいたいと思うのは自然なことだよね。 「こんにちは」  図書館で勉強しているときに、頭から振ってきた、小さな草部君の声に、私は驚いて顔を上げた。図書館は理系キャンパスに一つしかなく、文系学生も理系学生も利用しているのだ。 「調べもの?」 「うん。ゼミの担当が近いの」 「そうなんだ。俺も調べ物」  草部君は私の向かい側に座って、持ってきた数冊の本を広げ、何か書き出した。私も勉強しに来てるんだから、勉強しなきゃ。そう思って、草部君が来るまでにしていたことの続きに取り掛かった。最初は草部君が気になって仕方なかったが、ゼミ担当の日まで数日しかない。次第に気にならなくなり、作業に没頭していた。自分のシャーペンが立てる音だけが聞こえていた。  すると。笑いを押し殺したような声が聞こえてきた。 「?」  草部君だった。 「な、何? どうかしたの?」 「いや。ははっ。考え事しているときに、シャーペンをあごに当てるのって、宮本さんの癖なの?」  私は自覚していない自分の癖を指摘され、顔が熱くなるのを感じた。 「気づかなかった……。もう! 人の癖を笑うなんて、悪趣味だよ~」 「いや、可愛いな、と思って」  と言って、しまった、とでも言うように今度は草部君が顔を赤くした。もちろん私の頬も真っ赤になっていることだろう。  結局一緒に図書室を出た。  気がついた。今日で五回目の偶然だ! これは……!   図書室からお互いの研究室に戻るため、別れようとしていたときだった。 「あの」 「えっとさ」  私と草部君の声が重なった。 「さ、先にどうぞ」  私は遠慮がちにそう言った。 「うん……。じゃあ……」  草部君はそう言ったものの、しばらく黙ってしまった。  そして、覚悟したように私の目を見た。 「俺たち、なんか本当によく会うよね」 「うん。偶然が多いよね」  私は笑って応える。偶然にしては多すぎるほどだ。 「あの、さ……。……これって運命なんじゃないかなって最近思うんだ。だからという理由では納得できないかもしれないけれど……。付き合わない? 俺たち」  草部君の言葉。なんだかとんでもないことを聞いたような……。  ぼんやりとしていると、 「聞いてた?」  と草部君。私は手をパタパタと振って、 「う、うん。聞いていた。あの、私も同じことを言おうと思っていたから、ちょっとびっくりして……」  と答えた。全身が熱い。 「え?! そうなの? 嬉しい奇遇だなあ。ほんと嬉しい。じゃあ、これからもよろしく、宮本さん」 「うん。よろしく、草部君」  その日から私たちは付き合うようになった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加