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入学式も終わり、段々S大の生活にも慣れてきたときだった。私は朋の研究室を訪れた。理系は道路を挟んで向かい側に校舎がある。私は迷いそうになりながらも、なんとかたどり着いて、そこで見知った顔に出会い、驚いた。
「あれ? 草部君? 理学部だったの?」
「宮本さん? どうしたの、こんなところに。文系だったよね」
「うん。高校のときからの友達がこの研究室にいるんだ。あ、朋!」
「あ、宮本!」
応えた朋の瞳が一瞬揺れた。
「今日は授業が早く終わったから、迎えに来たの。邪魔だった?」
「そんなことないよ。もうちょっと待ってて」
朋の言葉に、私は研究室の椅子に座らせてもらい、待つことにした。
すると草部君が声をかけてきた。
「なんだか、よく遭うよね? 面白いほど」
「そうだね。偶然」
私はジンクスを信じてる。偶然も五回起これば運命になる! って。もうすぐ五回じゃない? 運命の恋! なのかもっ。
「宮本、終わったから行こうか」
「うん。ごめんね、せかしたようで。じゃ、行こう、朋」
私は研究室を出るときに、振り返って草部君を見た。
「また時々くるかも。じゃあね、草部君」
「仏文って楽なの?」
草部君の言葉に、私は頭をふった。
「そんなことないよ。大変だよ。ゼミも多いし、レジュメの用意大変なんだから」
「そっか。どこも大変だよね。ごめんごめん」
草部君の笑顔は私を幸せにする。もっと、もっと一緒の時間をすごせるようになれればいいのに。段々心の距離が縮んでいるような気がして、私はわがままになっていってるようだ。でも、好きな人と一緒にいたいと思うのは自然なことだよね。
「こんにちは」
図書館で勉強しているときに、頭から振ってきた、小さな草部君の声に、私は驚いて顔を上げた。図書館は理系キャンパスに一つしかなく、文系学生も理系学生も利用しているのだ。
「調べもの?」
「うん。ゼミの担当が近いの」
「そうなんだ。俺も調べ物」
草部君は私の向かい側に座って、持ってきた数冊の本を広げ、何か書き出した。私も勉強しに来てるんだから、勉強しなきゃ。そう思って、草部君が来るまでにしていたことの続きに取り掛かった。最初は草部君が気になって仕方なかったが、ゼミ担当の日まで数日しかない。次第に気にならなくなり、作業に没頭していた。自分のシャーペンが立てる音だけが聞こえていた。
すると。笑いを押し殺したような声が聞こえてきた。
「?」
草部君だった。
「な、何? どうかしたの?」
「いや。ははっ。考え事しているときに、シャーペンをあごに当てるのって、宮本さんの癖なの?」
私は自覚していない自分の癖を指摘され、顔が熱くなるのを感じた。
「気づかなかった……。もう! 人の癖を笑うなんて、悪趣味だよ~」
「いや、可愛いな、と思って」
と言って、しまった、とでも言うように今度は草部君が顔を赤くした。もちろん私の頬も真っ赤になっていることだろう。
結局一緒に図書室を出た。
気がついた。今日で五回目の偶然だ! これは……!
図書室からお互いの研究室に戻るため、別れようとしていたときだった。
「あの」
「えっとさ」
私と草部君の声が重なった。
「さ、先にどうぞ」
私は遠慮がちにそう言った。
「うん……。じゃあ……」
草部君はそう言ったものの、しばらく黙ってしまった。
そして、覚悟したように私の目を見た。
「俺たち、なんか本当によく会うよね」
「うん。偶然が多いよね」
私は笑って応える。偶然にしては多すぎるほどだ。
「あの、さ……。……これって運命なんじゃないかなって最近思うんだ。だからという理由では納得できないかもしれないけれど……。付き合わない? 俺たち」
草部君の言葉。なんだかとんでもないことを聞いたような……。
ぼんやりとしていると、
「聞いてた?」
と草部君。私は手をパタパタと振って、
「う、うん。聞いていた。あの、私も同じことを言おうと思っていたから、ちょっとびっくりして……」
と答えた。全身が熱い。
「え?! そうなの? 嬉しい奇遇だなあ。ほんと嬉しい。じゃあ、これからもよろしく、宮本さん」
「うん。よろしく、草部君」
その日から私たちは付き合うようになった。
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