51 冬磨、可愛い

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51 冬磨、可愛い

 敦司にどう伝えようかと悩み、『冬磨と恋人になりました。敦司ありがとう』と送った。『恋人』と打つとき指が震えて、顔が火照った。  すると、速攻で『よし。冬磨、認めてやる』と返事が返ってくる。  ……これは、冬磨宛て……かな。  スマホから顔を上げて冬磨を見る。「報告終わった?」と俺に笑いかける冬磨に、おずおずとスマホの画面を見せた。   「ん?」    不思議そうに画面を覗いて、一瞬目を見開いたと思ったら、優しくふはっと笑った。 「やった。認められた」 「ごめんね……呼び捨て」 「なんで? お前のダチは俺のダチだろ? 俺も敦司って呼ぶわ」  お前のダチは俺のダチ……。そんな風に思ってくれるんだ。  すごくすごく嬉しくて、胸が熱くなった。 「冬磨……ありがと」  お礼を伝えると、またとろけるような瞳を俺に向けた。 「はぁ……ほんと、今までのお前と違いすぎて、俺ずっと心臓やばいんだけど」     と優しく俺を抱きしめて「マジで夢みたい……」とささやいた。  冬磨も同じ気持ちなんだと思うと胸がジンとした。   「お、忘れるとこだった。で、なんでキスマークなんて付けたんだ?」    まだ終わってなかったんだその話……とガックリする。  今までたくさん冬磨に嘘をついてきた。嘘に嘘が重なってずっと苦しかった。  俺はもう、何も嘘はつきたくない。   「目を開けないとしらけるって……冬磨が言ったから」 「……えっ?」 「でも、目を開けると好きだってバレちゃいそうで……だから、他にちゃんとセフレがいるって……証拠を作りたくて……」    正直に話してしまった。  冬磨がどう思ったか不安で仕方なかった。  胸からそっと顔を上げて、黙り込んだ冬磨の顔を覗き込むと、それに気づいた冬磨が俺を見て苦笑した。   「そっか、自分のせいで嫉妬する羽目になったんだな」 「と、冬磨のせい……っていうかっ。あの……でも……」 「いいんだ。しらけるって言ったあと、俺お前のこと切るって言ったもんな……。だから必死で考えたんだろ?」 「…………うん。ごめんなさい」 「いいって、俺が悪いんだ。それに、お前が必死になってくれたおかげで……」  そこで冬磨の言葉が止まる。  冬磨がじっと俺を見つめてくるからドキドキした。 「おかげ……で?」  冬磨の口元がゆるんで、またぶはっと吹き出した。 「クソセフレからのストローっていうギャップまで堪能できたしな?」  と、いつまでも笑いの止まらない冬磨に、ホッとするよりも恥ずかしすぎた。 「いやでも、まじでストローで太ももにって。ふはっ。なんだよお前、俺のことすげぇ好きじゃん」  冬磨がクスクス笑ってそんな当たり前のことを言うから、胸に顔をうずめてぎゅっと抱きついた。 「うん……大好き」  好きだとバレてもそばにいられるなら、俺がどれだけ冬磨を好きか、もっともっと伝わってほしい。 「俺……いつも冬磨が中心なんだ。週の初めは冬磨の誘いが来るまでソワソワして、約束が入ったらずっとドキドキして、冬磨と会ったあとは来週までもう会えないってわかってるから気が抜けちゃうの。冬磨のセフレになってからは、ずっとそんな生活だった」  冬磨にぎゅっと抱きついて俺は続けた。 「冬磨に切られたとき、もうどうやって生きていけばいいのかわかんなくなった。冬磨のいない毎日なんてもうどうでもよかった。でも、諦めたくないって……まだ何かできることがあるかもって思ったら、まだ頑張れるって思った。……それくらい、冬磨が中心なんだ」  どれだけ伝えてもきっと全部は伝わらない。  全部、全部伝わればいいのに……。 「冬磨が俺を好きになってくれて、本当に夢みたい。冬磨……好き。本当に大好き……」  俺の中であふれる冬磨への想いは毎日どんどんふくれあがる。こんなの伝えきれるはずがない。  それでも、素直に伝えてもいいことが、この上ない幸せだった。 「大好き……」  もう何度伝えてもいいんだ。何度伝えても……。  …………あ、そんなに伝えたらうざいかな……? 「あ、あんまり言うと……うざい、かな」 「……ちょっと……俺いま死んでるから待って……」 「っえ?」  死んでるって……え?  びっくりして冬磨を見ようとしたけれど、冬磨が俺の頭に顔をうずめていて顔を上げられない。 「冬磨? 大丈夫?」 「……だめ。天音が泣いた分の苦しさ全部流れてきた。それに、もう天音が可愛すぎて悶絶通り越して俺死んだ」 「え……え?」  冬磨は何度も深く息をついては、苦しいくらいにぎゅうぎゅうと俺を抱きしめた。  冬磨のほうが可愛いんだけど……どうしよう。  本当に冬磨は俺を好きなんだと、なんだかやっと実感できた気がする。  冬磨がぎゅうぎゅう抱きつくのがあまりに可愛くて、思わず笑ってしまった。 「え……天音、いま笑った?」 「えっと、うん笑った」 「なんで?」 「冬磨が可愛くて」 「は? 俺は可愛くねぇだろ。それはお前だ」 「ううん。いまの冬磨、可愛かった」 「おい、こら、可愛いって言うな」 「えっ、だって可愛かったもん」 「…………もん……って、……ほんと、かわい……」  冬磨の手が俺の顎にふれ、持ち上げられたと思ったら唇をふさがれた。 「ん……っ……」  キスをされるたびに心臓が跳ね上がる。  心臓……痛い……。でも、嬉しい……っ。 「天音。うざくねぇから何度も言って。俺、ずっと聞いてたいって言ったろ? お前の好きって言葉」  そうだった。抱かれてるときにそう言われたっけ。 「うん、嬉しい。好き……冬磨」 「…………くそ。やっぱ閉じ込めてぇ」  冬磨は俺を抱きしめたまま、ふたたび枕に頭を沈めて天井を仰ぐ。  そこで俺は、いつもと違うことにやっと気がついた。  幸せに溺れて冬磨を離してあげられなかった。 「ねぇ冬磨」 「ん?」 「タバコ、吸っていいよ。ごめんね、俺が抱きついたままだったから吸えなかったよね?」 「タバコ?」    いつも終わったあとに吸うタバコ。  冬磨きっと我慢してたよね。  俺が身体を離すと、ぽかんとした表情で俺を見る冬磨がそこにいた。 「冬磨?」 「すげぇ天音」 「なにが?」 「全然吸いたい衝動起きなかった。天音に夢中だとタバコやめられるかも。お前すげぇな」    本気で驚いた顔をする冬磨が、やっぱり可愛かった。    
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