64 キャンプのはずが……

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64 キャンプのはずが……

『天音、おまたせ』 「うんっ、すぐ行くっ」    電話を切って、準備した荷物を持つと俺はすぐに家を飛び出した。  今日はキャンプだ。冬磨とキャンプ。冬磨とキャンプっ!  アパートを出ると、すぐに冬磨の車が目に飛び込んできた。真っ白のRV車。すごいアウトドアにピッタリだ。  冬磨がトランクを開けて待っていた。   「おはよう、天音」 「おはようっ、冬磨っ」    冬磨は俺の荷物を受け取ってトランクに積み、ドアを閉めるとじっと俺を見つめる。   「……抱きしめたら……だめだよな?」  俺も冬磨に抱きしめてほしい……。 「い、一秒……三秒だけ」  冬磨が目尻を下げ、とろける瞳で俺を抱きしめた。 「天音」  「冬磨……」    冬磨の優しい腕に包まれて、めまいが起こりそうだった。 「冬磨……大好き……」 「……それ、いま反則だろ」  三秒のはずが、冬磨はさらにぎゅうっと俺を抱きしめる。  キャンプのために有休を取れるよう、今週は必死で残業をした。もちろん有休のためだから退勤記録をしてからだ。  冬磨は遅くても家に来い……と、迎えに行くと言ってくれたけれど、冬磨に会う、そう考えるだけで頭がふわふわして仕事にならない俺は行くのを我慢した。キャンプのために。有休が取れるように。冬磨に会うのをひたすら我慢した。  キャンプ前日の土曜日から冬磨の家に行く予定だったのに、仕事上の思わぬトラブルが発生して、出勤することになってしまった。しかも、仕事が深夜までかかってしまって、冬磨に会うのは諦めた。  冬磨と恋人になって三週間。最初の二週間は、ほとんどを冬磨と一緒に過ごした。  だから、この一週間はあまりにも冬磨不足で、冬磨にふれたくてふれたくてたまらなかった。  せめてもう少し抱きしめてもらえるように、アパートの前じゃなく家まで来てもらえばよかった……。 「冬磨……もう……三秒が一分になってそう……」 「うん……だよな」  ゆっくりと身体を離す。周りを見渡すと、人通りの少ない路地に、たまたま犬の散歩をしてる人の姿。目が合うとパッと目をそらされる。  道端で抱き合うなんて……非常識なことしちゃった……ごめんなさい。  助手席のドアを開けてくれた冬磨に、彼氏っぽいっ、と胸がドキドキしながら車に乗った。  運転席に座った冬磨をじっと見つめた。今度はキスがしたくてたまらなくなった。  冬磨と目が合うと、お互いなにも口にしなくても同じ気持ちだと伝わった。 「ちょっとだけ……いい?」 「でも……また人が来たら見られちゃう……」 「ちょっとだけ」 「でも……」 「ちょっとだけだから」 「……うん」  そっと唇が重なった。その瞬間、全身にビリビリとしびれが走る。優しく舌を舐められると、もっとほしくてたまらなくなった。  冬磨は、唇を離して周りを見渡し、人がいないことを確認するとまたキスをした。 「んっ、……と……ま、もう……」  もうやめよ、そう言いたいのに、冬磨は何度も周りを確認してキスをくり返す。 「……ん……、と……ま…………」 「好きだよ……天音」 「ん……すき……」  一週間会わないなんて付き合う前は普通だったのに、今はつらくてたまらない。いつでもこうしてふれ合っていたい。  どうしよう……キャンプはすごく楽しみなのに、冬磨と深くふれ合えないことがつらい。もっともっと、冬磨にふれたい……ふれてほしい。 「と……ま……、もう……だめ、だよ……」  もう車ではだめ。  キスを終わらせて見つめ合う。  このままだとキリがない。お互いにそれが痛いほどわかってしまった。 「なぁ……ちょっとだけ、お前の家に…………」 「ら、来客用の駐車場……そこ」  俺の指差しで、冬磨は素早くエンジンをかけて車を移動した。  遠回りでゆっくりドライブをしようと、早くに出発する予定だった。  だから……ちょっとくらい遅くなっても大丈夫……。  気が急いて、家の鍵を開けるのに手間取った。  やっと開いて中に入る。冬磨は俺を優しく見つめて抱きしめた。 「天音。……はぁ……ほんと会いたかった」 「冬磨……好き……」 「ん、俺も好きだよ、天音」 「とぉま……」  キスしたい……。今すぐ冬磨とキスしたい。  冬磨のうなじを引き寄せて、初めて自分から唇を合わせた。  冬磨は一瞬目を見開いて、そして極上の笑みでキスを受けてくれた。  初めて俺から舌を出すと、冬磨がそれにじゅっと吸い付いた。 「んっ……、ふぁ……っ……」 「天音……ベッド、どこ?」 「ん……っ、まっすぐ奥…………わっ」  冬磨が俺を抱き上げてずんずん中に入って行く。  冬磨の家と違ってワンルームの狭い部屋。  入ってすぐに目に入るベッドに冬磨は俺を優しく寝かせ、俺を抱きしめながらたくさん優しいキスをした。 「と……ま……」 「天音……好きだよ、まじで好き。一週間……ほんとつらかった」 「おれも……っ、会いたかった……とぉま……っ」  この一週間、本当につらくて何度も会いに行きたくなった。でも、これくらい今までは普通だったじゃんって……そのたびに自分に言い聞かせた。  まさか冬磨も俺と同じようにつらかったなんて……そんなの嘘みたいだ……っ。  冬磨が大好きっていう俺のこの気持ちは、重すぎるってわかってる。それなのに、まるで冬磨も俺と同じみたいに聞こえる。  だめだ……あんまり勘違いしないようにしなきゃ……。    
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