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あれから、もうみーちゃんと会えることはなかった。保護された先で、身体の傷は誘拐されて出来たものと疑われたけれど、すぐに否定した。
みーちゃんとの日々の中で本当の幸せを知った美伽は、家族に対する義理なんてものが、とっくになくなっていた。だから、ずっとずっと耐えてきた地獄の日々を、余すことなく警察に話した。
みーちゃんは助けてくれただけだと何度も説明したけれど、結局美伽は施設で暮らすことになって、みーちゃんは塀の向こうに居るらしい。
警察は、ひどい。優しいみーちゃんを悪者として檻の中に監禁するなんて。あんまりだ。警察の方が、よっぽど悪い誘拐犯だ。
「みーちゃん……」
こうして大人に失望して成長した美伽は、やがて施設を出て一人暮らしを始めた。両親からも離れて、自由を手に入れた。
それなのに、どうにも心は満たされなかった。あの細やかな二人だけの日々が、何ものにもかえがたい幸せな時間だった。
そして、ふと思い付いた。今度は、美伽がその幸せを与えるべきだ。そうすれば、みーちゃんのしてきたことが間違っていないと証明できる。
だから美伽は、今日もかつてのみーちゃんのように誰かを助けてあげたいと思いながら、公園で困った子を探す。
無意識に痛いところを庇う子、人の視線や顔色を伺う子、誰かの大声に萎縮する子。いろんな子を観察して、やがて昔の自分にそっくりな子を見つけた。
ああ、きっと、みーちゃんもこんな気持ちだったのだ。
「……ねえ。うち、来る?」
「え……?」
「美伽がね、あなたを助けてあげる」
「……たすけて、くれるの?」
あの日永遠にはなれなかった細く脆い蜘蛛の糸を、手繰り寄せて、継ぎ接ぎに紡いで、壊れてしまった居場所を取り戻すように巣を作る。
きっとまた、その幸せもすぐに終わりを迎えてしまうのだろうけれど。
刹那の日々を重ねて、いつか、あの日夢見た幻が永遠になることを願って。
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