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「綺麗な子だから危ないなぁと思ってたんだ……なんて言ったら怒られちゃうかな。僕は情報学部3年の永春靖彦。天文サークルの部長をしています。ところで星野さん……すごく素敵な名前だけど、天体に興味はあるかい?」
廊下で声をかけてくれた彼が部長だったらしい。
綺麗な子だなんて聞き慣れたはずの社交辞令も彼の口から聞くとなんだか照れてしまって、再び頬が熱を持つ。
ぽやっと浮かれる頭の隅で、自分が今勧誘されているということに気付いた。
確かに「星のあかり」なんてこれ以上天文サークルに向いている名前はそうそうないだろうが、残念ながら私は星に詳しくない。
しかし助けてもらった恩があるのに断るのも失礼な気がした。
戸惑っていると、ショートボブの化粧っ気のない女性がいつの間にか受け取った菓子折りを開けながら声を上げる。
「うちのサークル、星を見たい人よりも部長と副部長の顔を見たいって人のほうが多いの。でもこの2人が付き合ってるって知ると辞められちゃうんだ。おかげで万年部員不足でさ」
なんとなく距離の近い感じはしていたけど、付き合っているのか。
美男美女でお似合いだから仕方ないけれど、やはり残念だ。
こんな男性と付き合えたら、絶対幸せになれそうなのに……少し考えて、私は唇をくいっと上げる。
「星のことは詳しくはないですけど……見るのは好きです。それでも良ければ仲間に入れてください」
2人共素敵な人達だけれど、付き合ってるうちにはどこかで割り込む隙もあるかも知れない。
それならばなるべく近くに居たほうが有利だ。
そんな邪心から私は大学生活を天文サークルで過ごすことに決めた。
結局私の邪心まみれの初恋が実ることはなくて、彼の卒業後にはまた持ち前の男運のなさから碌でもない男に引っかかったりもしたのだけれど。
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