予感

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予感

数カ月後、ランチタイムの食堂で手製の弁当を広げた彼女はほぅと一つため息をつきながら、最後に残していた卵焼きを箸でつまみ上げた。 さすがにリクルートスーツはやめたものの、野暮ったさは抜けていない。 「明里ちゃん、永春さんの後輩なんだよね。あの人、もうちょっと優しくならないもんかな……」 あの日盛大にすっ転んだ彼女、大川桜とはその後なんだかんだと親しくしている。 理由は簡単、彼女の担当である靖彦先輩に近付くためだ。 とは言うものの気が合わない相手と合わせられるほど私は度量の広い性格でもないので、彼女のヌケてはいても明るく含みのない素直さが気に入っている事は認める。 要は正反対ながらも気が合ったということだ。 「何訳わかんないこと言ってるの、充分優しいじゃない。どうせ桜の手が遅いのがいけないんでしょ」 「あの人と比べたら誰だって手が遅いって言われるよ……」 彼は在学中から優秀な人だったけれど、その評価は仕事でも健在なようで、驚異的な早さで出世するのではないかと専らの噂である。 「それに手が遅いのわかっててこっちに仕事どんどん回してくるの、絶対イジメだと思う」 みーみーと文句を垂れると、桜は弁当を食べ終える。 その目の前にプリンがちょんと2つ出現した。 それを摘んでいる長い指の持ち主を見上げ私は目を輝かせ、桜は潰れたカエルのようにぐぅと声を上げる。 それを見て彼、永春靖彦は苦笑いしながら椅子に腰掛けた。
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