予感

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「いじめたつもりはないんですけどね。大川さんは確かに手は遅いけど、ミスが少なくて助かってます。それに良いバグ発見機なので」 「デバッガ扱いですか……じゃあ、コレは賄賂?」 「(ねぎら)わないと大川さんいじけるから。星野さんも良かったら食べて」 ふふっと笑う、柔らかな笑顔も記憶の通り。やっぱりこの人良いな…… 「あの、靖彦先輩。まだ玲香先輩と付き合ってるんですか?」 大学を卒業するまで彼らは続いていた。 靖彦先輩は2人の関係に波風の立っている時でさえ大らかに彼女を包んでいるように見えて、結局私では敵わなかった。 それが酷く悔しくて何かにつけアプローチはしたものの、全く取り合ってももらえなかった。 しかしそんな誘いに動じない誠実なところも素敵に見えて、私は彼への想いを募らせたのだが、卒業後は疎遠になって恋心を胸の奥に沈めたのだ。 「いや、卒業後間もなくで別れたよ。彼女は実家の岩手の方で就職したんだけど、やっぱり遠距離は難しいもんだね」 少し困ったような自嘲気味の笑顔には、未練の色はない。私は内心活気づいた。 「今は……」 「寂しい独り身ってやつ」 一つも寂しさは見えないが、これはチャンスだ。 何か誘いの一つでもと思った途端、彼が口を開く。 「ところで大川さん。さっき連絡があって、納期早まっちゃった」 「……んぁ!?」 きっかり桜がプリンを食べ始めたのを見計らって話したらしい。 「さ、午後も一緒に頑張ろうか!」 「罠だっ! 賄賂じゃなくて罠だったぁっ!!」 いやあぁっと大騒ぎしながら頭を抱える桜に向ける彼の視線が優しくて、私はなんだかとても嫌な予感がした。
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