悲しみの始まり

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婚約してから半年と少し経った頃、桜が泣きながら私に電話をよこしてきた。 彼女が私の前で泣くのは初めてで、私はとても狼狽えた。 「明里ちゃん、これからお家に行っても良い?」 訊ねる声はガサガサで、余程泣き喚いたのだと窺い知れる。 「どこにいるの? 迎えに行ってあげるから……」 「……病院……」 「病院? どこか悪いの? それとも靖彦先輩に何か……」 訊ねれば訊ねる程に桜は泣くばかりで(らち)があかず、ようやく聞き出した場所にタクシーで乗り付けると、彼女は真っ白い紙のような顔色でベンチに座っていた。 余程のことが起きている事だけは明らかで、とにかく私の部屋へ連れて帰ったが、着くなり桜はトイレへと駆け込み胃の中身を吐いた。 吐ける中身が無くなっても痙攣が収まらない様子で、私は酷く苦しげにえづく背をさすってやって、時の過ぎるのを待つことしか出来ない。
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