悲しみの始まり

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落ち着いた彼女がまず口にしたのは、概ね予想通りの一言だ。 「妊娠してるの……」 「靖彦先輩との赤ちゃんよね。だったら泣くことないでしょう」 むしろ喜ぶべき事だろう。 彼女の性格を考えれば浮気などするような事はないし、万一誰かに何かされたのなら今まで私に黙っているとも思いづらい。 しかし桜はまたぶわっと涙を溢れさせて呟くように言った。 「もう……一緒に居られないのに……」 (なだ)めすかしながら時間を掛けて聞き出したのは、彼女が急性骨髄性白血病だということと、進行していてすぐに治療が必要だということ。 妊娠が発覚してすぐの検査で判明したらしい。 「ならすぐに治療を……」 「駄目! 抗ガン剤も放射線治療も、赤ちゃんに影響が出るの。それに進行が早くて……」 「バカ! 子どもどうこう言ってる場合じゃないでしょう!? あんたが生き残れば赤ちゃんはまた……」 桜はまた泣き出す。 その様子から事態はかなり深刻なのだとひしひしと感じられて、余計に不安が募った。 「治るの……よね?」 「……若いとより進行が早くて延命は出来ても……気付くのが遅すぎたの。健康に自信があったから、何回も妊娠を疑って違う度にちょっと疲れただけだと……すぐ治療してももって後5年……なら……せめて、せめて赤ちゃんだけでも……っ!!」 「靖彦先輩には相談したの?」 彼が知ったなら桜にそんな選択はさせないだろう。 案の定、桜は首を横に振る。
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