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出会いと再会と
彼女との出会いはもう6年も前になる、夏に差し掛かる頃だった。
世の中は空前の不景気、大卒者の就職率が70%を割り込むという異常事態の年に大学を卒業した私は、世の中のご多分に漏れず職に溢れた。
仕方なく登録した派遣社員の仕事だったが、幸運にもすぐに派遣先が見付かり思ったよりは悪くない社会人生活の第一歩を踏み出すことが出来て、ほっとしていた頃のことだ。
不景気だというのに業績の良い大手家電メーカーの本社ビル。
大学の卒業式よりもかなり前から私はここに派遣されている。
内定が一つも出なかった時には世の中全てに自分の存在を否定されたような気分になったものだが、非正規とはいえ一流企業の小洒落たオフィスで勤務していると言えば聞こえは良い。
周りで働く正社員達もどこかさっぱりとしたもので、出来るものならここらで有望株を落として専業主婦にでも収まりたいと内心ギラついてもいた。
おかげで折角の給料はその大半が見映えのするオフィス服へと姿を変えたが、実家近くに部屋を借りているため半寄生状態でどうにかやっていっている。
カツン、とローヒールの踵を鳴らして歩を進めれば振り返る誰かの視線を感じる。
オフィス仕様のコンサバファッションでも、盛りの足りないナチュラルメイクでも、顔立ちの派手な私は人目を引いた。
年頃になった頃から感じるようになった異性からの視線は最初こそどこか気持ち悪いと思っていたものの、慣れれば優越感をくれる。
少し微笑んでやれば親切にしてくれるし、そこに不自由はない。
難を言えば積極的に言い寄って来るのがチャラついた男ばかりで、堅実で誠実なタイプからは敬遠されがちだということくらい。
強めに見える女はどう扱っても大丈夫だという安心感でもあるのだろうか。
庇護欲が掻き立てられないというのは損なものだ。
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