壊れてしまえばいい

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翌日の社内はその噂で持ち切りで、聞き耳を立てずとも自然と情報が集まるほどだった。 靖彦先輩は出世頭で次の春には部長確定とまで言われていたので通常時でも注目されている。 それが過労と心労、その上栄養失調ときたら上役達は過剰労働の責任を追求されるのではないかと騒ぎ出し、女性社員達は我先にと自己アピールに励み、更には自分こそ彼の恋人であると自称する者が最低でも3人は出てきててんやわんやのお祭り騒ぎ。 それを横目に私は怒り心頭だった。 桜は彼の人生を壊さないためにと自らの幸せを(なげう)ったというのに、当の本人が自分を大切にしない。 その上で私の誘いを断っておきながら、社内だけでも3人の女に手を出していたという全ての側面からもうどうにもならないほど頭に来た。 見舞い……というにはあまりにも荒々しい足取りで病室を探すと、自称恋人達が不満顔で罵り合いながら出て行くところだった。 彼女らは互いを口撃することに夢中らしく、すれ違った私など眼中に無いようだ。 桜とは全く真逆のその醜い姿に、彼が完全につまみ食いしただけだということを確信する。腹の奥が胸焼けでもしているかのようにむかついた。
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