出会いと再会と

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物思いに(ふけ)っていると、聞き覚えのない奇妙な音が切ない空気をぶち壊した。 何とも表現しにくいその擬音を言葉にするならば「べしゃ」と「ガツッ」と「ドカ」の中間くらいだろうか。 合間に「わひゃあ」という奇妙な声も入っていたようだ。 作り込んだ巻き髪の乱れを気にしながら音のした方を振り返ると、床の上で盛大に転んでいる紺色の塊を発見した。 吊るし売りの安っぽいリクルートスーツから覗くストッキングの脚は靴も脱げていて、かなり悲惨な状況だ。 「だ……大丈夫?」 本来であれば見なかったことにして置いて行きたい所だが、廊下の向こうに営業部の若手エースと名高い男性の姿を見付けてしまった。 ここは優しさアピールのチャンスだと割り切って、幼児並みの転び方をした鈍臭い女に声を掛ける。 「うぅ……痛ぁい……」 いかにも就活中といった風貌の彼女は床に額を強打したようで、赤くなった額を押さえながらよろよろと身体を起こした。 肩から下げていたと思われる大きなバッグは幸い口が閉じていたようで、中身をぶちまける事はなかったらしい。 廊下の端まで滑っていたそれを拾ってやると、彼女は脱げた靴を見付けて足を突っ込んでいた。 廊下のあちこちからくすくすという嘲笑と好奇の視線が向けられ、私は無関係だというのに何故か無性に腹が立った。 この就活中の学生が、少し前までの必死だった自分とどこか重なって見えたせいだろう。
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