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「こっちに来て」
彼女の手を引いて階段の踊り場まで向かうと、埃の付いたスーツを払ってやる。
襟の乱れを正し、一歩引いて見ると膝小僧から血が出ていて、ストッキングも伝線していた。
「ストッキングの替え、持ってる?」
「……あります」
「そう。これあげるから、そこのトイレで履き替えなさい」
先日紙で指を切った時の名残りでたまたま持っていた絆創膏を渡して彼女に背を向けると、腕を掴まれた。
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「わかったから……」
離してくれと言おうとした私の顔を覗き込んで、くるんと大きな瞳が何かを訴えている。
「大変ご迷惑なのは充分承知してるんですが、エンタテインメントテクノロジー部の場所を教えて下さいぃぃ!! 担当の方とはぐれちゃったんです!!」
「……はぁ?」
面倒な拾いものをしてしまった……目の前で半べそをかいている女性を見ながら、私は慣れないお節介はするものではないと大きな後悔をした。
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