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始業まではまだ少し時間がある。
仕方なく別棟にある部署まで案内してやる道すがら話をしていたら、驚いたことにこの鈍臭い女は学生ではないらしい。
しかも私と同じく就職浪人、幼く見えるが同い年だそうだ。
「組み込み……? 何、それ?」
「組み込み開発って、えぇと……SEの派遣みたいな仕事です。クライアントの注文に合わせてプログラムを組むのが仕事なんです。って言っても初めての派遣先なんで凄い緊張してますけど」
さすがは就職難のご時世、スキルがあっても職にあぶれる者も居るようだ。
私のようなただの文学部卒業生など、洟も引っ掛けられなくても仕方ないのだろう。
「なんでもいいけど、リクルートスーツはやめなさい。派遣ってだけでもナメられるのに、そんな格好してると余計にバカにされるから」
すると彼女は困ったように眉を顰めて、うーんと一声唸った。
「先立つ物がないんですよ……内定貰ってた会社が入社直前に倒産しちゃって、引っ越したばかりだし親に貰った仕送りも新生活の用品であらかた消えちゃったんです」
どうやら鈍臭いだけじゃなくて、運もない女らしい。
「もう一度引っ越しする余裕もないし、これ以上親に迷惑も掛けられないからこっちで働き始めたんですけど……これじゃダメですか」
「この会社、オフィスカジュアルオッケーだから普段着でも気回せれば……」
「普段着……Tシャツとかトレーナーとかじゃまずいですよね」
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