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私は絶句した。
つい先日まで女子大生だったというこの女、洒落っ気がないにも程がある。
まじまじと顔を見れば、元はそう悪くはない。
基本の造作は男ウケするうさぎ顔、スリムというにはややぽってりした体型も癒し系として需要がある。
少し磨けば引く手もあるというのに、あまりと言えばあんまりだ。
何か一言言ってやろうと息を吸い込むと、私より先に声が上がった。
「居た! 大川さん!」
やや高めのバリトンが人気のない廊下に響くと、胸が跳ねる。
あの人の声に似ている……居る筈のない彼の記憶が心をざわつかせた。
「急に居なくなっちゃうから探したよ」
「すみません、永春さん」
永春……まさかと思いながら振り返ると、そこには記憶の中と変わらない彼の姿があった。
「はぐれて困って居たところを、そちらの星野さんに助けていただきました」
「え……星野さん?」
「お久しぶりです靖彦先輩、星野 明里です。こちらにお勤めだったんですね」
信じられないほど驚いてはいたが出来る限りの平静を装って出した声は、我ながらどこかわざとらしい。
無様に狼狽えるところを見せたくないという可愛げのなさに自分が嫌になる。
その一方冷静な頭の片隅で、私はほんの数年前までキャンパス内で見掛けていた懐かしい彼の姿を思い出していた。
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