人工知能違い

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 今からもう十年前僕は対話型コミュニケーションソフトの研究を進めていた。  まだチャットGPTなんてなかった時代に雑談を可能とするものだ。スマートスピーカーでもない。本当に対話ができるもの。  人工知能を高度に運用してネット上の情報で最適な返答を導き出す。 「実現化なんて」  誰かが会社の僕たちの研究室の前であざ笑っている。確かに到底難しい研究だ。しかも僕が若くてチームも若者ばかりだった。しかしもし実現できたのならこれは素晴らしい技術。だから会社からもきちんとした研究室と人員を得ている。僕はその研究主任だ。  スーパーコンピューターにシステムを構築する。もう質問くらいの回答はできるようになった。これはチャットGPT程度のもの。しかしまだ完成ではない。望んでいるのはこの上のものだった。 「主任。もうこれで発表してはどうでしょうか? これでも十分商品価値のある、発明ですよ」  研究室ではもうこれ以上の研究を進めないで、取り合えず商品化にして、それからまた研究を進めようという者も居た。 「こんなんじゃ駄目だ。これじゃあ便利ツールでしかない。我々が目指しているのはそんなもんじゃ無いんだ」  僕はそんな研究員たちの話を良しとはしなかった。だけどそうなると「理想論で語られてもな」と文句を言う人間も居る。  まだこんなツールでは駄目だ。このシステムは実際に会話ができないと。チャットGPTみたいな物では駄目なんだ。友人になれる、家族になれる、恋人になれる、そんなシステムじゃないとならない。  言うなればアンドロイドの知能部分そのものを造らないと僕は発表する気なんてなかった。 「会話の段階まで持ち上げるのは簡単ではありませんよ」  質問に答える。これならば簡単なんだ。それでもそんなのは会話じゃない。 「ランダムな話に応じて返答をするなんて難しすぎます」  当然わかっている。単に相づちを打つくらいのものなら、今のシステムに追加すれば簡単。でもこれも違う。  あくまで会話ができないと駄目なんだ。人間のようにありとあらゆる返事をして、時には質問で返すくらいのレベルまで達しないと。 「会話型ってロマンは有りますね」  賛同してくれる人間も居た。そりゃそうだ。昔から映画なんかの世界では機械と会話する未来なんてのが描かれている。それはどうしてなのか。望んでいるからだ。  ならばそれを実現させよう。問題はない。このレベルまで他の企業はまだ届いてない。僕たちの研究室が世界で一番進んでいるのだから。  僕たちの研究室は難題に向かって進んでいた。 「対話用音声サンプルはこれにする。読み込みを頼むよ」  僕は音響担当の研究員にCDを渡した。それは僕の愛妻の声。 「わかりました。ある程度のサンプルで言動を自動生成できるようにはなりました。数日後には喋りますよ」  こちらの新技術もかなり進んでいる。人間の声を生成するのに膨大な音声サンプルは必要なくなっていた。これは僕の夢に近づける技術だった。
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