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「違うのかもしれない」
急にそんな疑問言葉がふわりと心の端に浮く。システムはかなり優秀。それでも僕の願いが叶ったと言う印象はなかった。
人工知能と話していても、それはただ妻の声で返答しているだけ。妻じゃないとそう思ってしまった。
「主任。このシステム素晴らしいですよ。きっと今度のプレゼンでは驚きになりますよ」
僕の印象とは違って研究員たちの反応は上々。そうだろう。技術としては十分だ。なのでこれでもしょうがないと思っていた。
「これはやはり違う。間違いなんだ」
それからも僕は人工知能との対話を重ねると段々とこの間違いが明らかになった。それは僕だけのことではない。
徐々に僕はこの研究は失敗だったと思い始めると、この技術を世に出して良いものかとさえ考え始めた。
「お疲れさまでした」
翌日がプレゼンとなった日。研究員たちが帰る。その顔は清々しい。
「さて、どうするべきか」
僕はとても悩んでいた。この研究は技術としては素晴らしい。しかし素晴らしいから便利な物とは言えない。
パソコンの画面に消去の警告でYとNの選択になっている。一方を選んだらこれまでのみんなの努力が全て無になってしまう。
それでも僕は決心した。
「主任! システムが全消去されてます!」
プレゼンの日の朝、研究員が僕に向かって焦って話しかけた。
「それは僕だ。全てのデータを消した。この研究は間違いだったんだ。責任は取るよ」
あまりの出来事だったのだろう。研究室のみんなはポカンとして僕を眺めるだけだった。
それから僕はプレゼンの場で研究は全て失敗だったと告げた。上役にもかなり良い噂が広がっていたので落胆ぶりは当然。
終わったのは研究だけじゃない。僕の経歴も全く無くなってしまった。完成していたシステムを消してしまった実害のない損益を生んだ僕は解雇され、会社を去る時には誰もが馬鹿にしていた。信頼してくれていた研究員たちでさえ。
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