毒の隣(どくのとなり)

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 あの子には、私しかいません。  何て残酷な現実なのでしょうか。  もはや呪いです。  私は心療内科で処方された複数の薬を飲まないと、正常ではいられません。  よく〝優しい人〟とか〝穏やかな人〟と言われますが、本当の私は自分のことしか考えられない薄情者です。  人に優しくするのは、自分が優しくされたいからなんです。優しくされなければ心がグチャグチャになって、暗い所に落ちていくからです。  あの子は、こんな私しか頼れないのです。それが本当に辛いのです。  あの子は良い子です。  何度もバラバラになる私を、何度でも拾い集めてくれます。  まだ短い腕を、細い指を、傷つくことを恐れずに伸ばしてくれるのです。  あぁ、神様。世の中の皆様。  ごめんなさい。  私は〝毒〟です。  私はあの子に暴力を振るいません。  暴言も吐きません。  衣食住を与えています。  あぁ、だけど、だけど。  欠けています。1番大切なものが欠けています。  毎晩、狭い部屋の隅で、酒を呑みながら、魚が死んだような腐った目で宙を見て、バラバラになっている。これほどみっともない姿をあの子に見せて、しかも拾わせているのです。  そんな私の生き方そのものが、あの子に少しずつ毒を注いでいるのです。  本当は、私が守らなければならないのに。あなたがバラバラにならないように。  今夜もまた、私はバラバラになりました。  今夜もまた、あの子はバラバラになったカケラを拾い集めています。    今は慕ってくれているけれど、あの子もいつか、私が毒物であることに気づく日が来るでしょう。  その時、あの子はどんな人間になるのでしょうか。  あの子は、(わたし)の隣で生きています。  こんな環境で育って、それでもあの子が優しさを失わなければ、それはあの子自身の力と周囲の人たちのおかげです。  もしあの子が世界を憎むようになったら、それは私の責任です。どうか私だけを恨んでください。  今夜もまた、私はバラバラになりました。  今夜もまた、あの子はバラバラになったカケラを拾い集めています。  以前の傷が治っていないまま、新しい傷を作って。  そんなに痛い思いをしても、長い時間をかけて集めても、明日の誰かの一言で一瞬でバラバラになるのに。  それでもあの子は一生懸命に、私の形を戻そうとしてくれています。  無性に、あの子を抱きしめたくなりました。  でもアルコールがまわって、体が言うことを聞きません。  何にも出来ないまま、変わらないまま、成し遂げられないまま、今夜も時間だけが過ぎていきます。  
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