毒の隣(どくのとなり)

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 今夜もまた、私はバラバラになりました。  今夜もまた、あの子はバラバラになったカケラを拾い集めています。 〝君のハートはガラスだねぇ〟  昔、初めて働いたバイト先の店長にそう言われたことがあります。  その通りです。私は昔から傷つきやすく、他人の些細な言動に落ちこんできました。いつも周りの顔色を窺って、気分を害さないようにしていました。相手が上機嫌だと、私を傷つける発言をしないからです。  でも、このままではいけないとも思っていました。もっと強くならなければ、と。  いろんな方法を試してみました。  だけど全部ダメでした。  何にも変わらないまま大人になりました。  就職しました。  体育会系の根性論のバイタリティな会社でした。  入社3年後に、私は初めて〝バラバラ〟になりました。  ガラスが割れたように砕けて、心が床のあちらこちらに飛び散ったのです。  今思えば、こうなる前兆は数週間前からありました。お腹が空かない、眠れない、身体が重い、文章を読んでも内容が頭に入ってこない、人の声は聞こえるのに言葉の意味が分からない、悲しいのに涙が出ない。  散らばったカケラたちを、私はただぼんやり眺めていました。これらを拾って元の形に戻さなければ、明日仕事に行けないのに。  何故動けないのか。  缶ビールを呑む力は有るくせに。  そんな時間がどれくらい続いたでしょうか。  別室で寝ていたあの子が起きてきました。  まだ深夜3時を過ぎた頃なので、とても眠たそうです。  しかし床の惨状を見た途端、あの子の重たそうな瞼がハッと開きました。  すると、あの子は一切の躊躇もせず、カケラたちを拾い始めました。  割れたカケラは尖っています。あの子の小さな手は傷つきます。痛そうに顔を歪ませます。  それでもあの子は手を止めません。どんな微々たる破片でも見落とさないとばかりに、机や棚の下を覗き込み、部屋の隅々まで探し、集めているのです。  しばらくして。  全てを集めたあの子は、オドオドしたような、少し緊張したような表情で、私にカケラたちを差し出してきました。  私は、受け取りました。  あの子は、安心したように笑いました。  両手の指に血が滲んでいるのに、笑っています。    そんなあの子の姿を見た瞬間、随分と久しぶりに涙が出たのを覚えています。  嬉しかったとか、感動したとか、そんな綺麗な理由ではありません。  あの子が可哀想で仕方がなかったのです。  あの子は、私に呪われている。  そう感じたのです。  
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