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①怒りと嘆きと酒の夜は…
「鈴木くん、ちょっと“控室”、来てくれる?」
吉井のBBAから、そんな連絡をPHSでもらったのは、その日の午前中の事だった。
2021年は既に12月に入っていた。
村木の妻から、あの“腰抜け”の職場復帰と「ウチの主人をイジメないで…」と何を言っているのか、分からない話をされた翌週だった。
まだ午前中のゴミ回収が半分ほどしか終わってないが、俺は仕方なく、一階のBPNの控室兼事務所前に戻り、回収用のカートを部屋の前に停めて、ノックして中に入った。
中には、微妙な顔をした吉井BBAが待ち構えていた。
(…また何か“お小言”だな?)と俺は予測した。
この派遣会社BPNの社員であるオバサンがこんな顔をする時は決まって、俺に何か“注意”をしてくる。
これまでも…、
『挨拶がない』
『ゴミの取り忘れがあった』
『口のききかたがなってない』
『ゴミ袋の補助を忘れている』
そんな事を言ってくる。
俺のミスもあるので、反論はしないが、中には言いがかりとしか思えないものもあり、度々、言い争いになっている。性格的にも俺と合わない。
頭に来るBBAだ。
特に『挨拶がない』は、俺からすると受け入れがたい話だった。
何故なら、俺は病気(脳腫瘍)の影響で言葉を発しにくくなっていた。
それでも院内の人間に会釈などはしている。挨拶くらいはしている。
確かに無愛想な部分はある。
このBBAは俺のそうした態度が気に入らないのだろう。
だが、俺より無愛想な人間はいる。あの野田とかいう売店の“運び屋”はどうだ。俺より無愛想だろう。
とにかくこのBBAは俺にやたらと“当たり”強い。
以前、村木から俺に対する“悪評”を聞いた、ということもあるのだろう。それは、多分に村木の“思惑”が入っていたのだが、それでも俺の態度から、この吉井の俺に対する姿勢は、いつも“上”からだ。
そして、俺はそんなバカと上司が大嫌いだ。
「…あ、鈴木くん、そこ、座って」と吉井は抑揚を抑えた声色で俺に促した。マスク越しだが、その口調には微かな嫌悪が見えた。
(…またか)と俺は思った。まだゴミ回収の途中だ。早く済ませてくれ。
新型コロナは収まったが、アフリカでは『オミクロン』という変異種が流行し始めた、と聞いた。病院はまた忙しくなりそうだ。
俺は吉井の向かいに座った。
(…どんなお小言かな?)
俺の予測とは違い、吉井は思ってもいなかった事を言い出した。
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