①怒りと嘆きと酒の夜は…

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 「…鈴木ね、『好きにさせてもらう』わけにはいかないのよ」  「…」  一瞬、なんの事か、分からなかった。  そして、すぐに理解出来た。  先日、行われたBPNの『ストレスチェック』の俺の解答だ。  俺がBPNに入った理由の一つ(というか、当て付け)である“腰抜け”村木の退職が分かり、俺はこの『病院清掃』の仕事に嫌気がしていた。  そこに所属する派遣会社からの『無記名』の『ストレスチェック』アンケートが行われた。  俺は、適当に愚痴を並べ立ててやった。  『Q.あなたにとって、理想の職場とは?』には「そんなもんあるわけない」と書いて、『Q.どうしたら、働き易い会社になると思いますか?』には「知るか!」と書いた。  最後の『自由に書いて下さい』の欄に「これからは、好きにさせてもらうよ」と書いてやった。  正直、そんな気はないが、このアンケートは無記名の匿名なのだ。構わないだろう。それが匿名の利点だ。  だが、違った。  吉井のBBAは、俺の答えを見逃さなかった。  内容から、俺と分かったのか、または無記名だが、渡したのは俺。解答アンケートをすぐに確認したのか。  その事を言っているのだ。  あのアンケートは匿名のはずだ。 「好きにされては困るのよ、鈴木君。…そうしたら悪い印象を周りに与えちゃうわよ」  吉井が困ったように俺に言う。  つまり、そうした態度を取るなら、「あなたの待遇を“悪く”するしかないわよ。仕方ないから…」と言いたいのだろう。『逆らえば、切る』だ。どこかの加工工場と同じやり口だ。このBBAは派遣を奴隷か道具だと思っていないか。  俺は心の底から、このBBAの社員に呆れた。  吉井は俺にお説教し、俺が「好きにさせてもらう」ことを非難した。
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