①怒りと嘆きと酒の夜は…

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 「…そんなもんすよ、派遣の社員なんて」と伊島は言いながら、またビールを飲んだ。  吉井から“お小言”をもらった次の金曜の夜。  俺は、大学の後輩、伊島と会っていた。  場所はいつものJR浜松駅構内の『八丁目』…ではなく、その向かいにある『ちゃんと屋』という立ち飲み屋だ。ここは、『ちょい飲みセット』というお得なセットがあり、780円(税別)でおでんとつまみ、さらにビールか酎ハイ、日本酒が飲める。少し“引っかけ”るには最適の店だ。  伊島は俺の大学の後輩で、今は豊橋にある派遣会社で働いている営業社員だ。副所長である。今日は静岡県内の企業に挨拶と営業周りに来たらしく、その帰りに俺と飲むことになった。  俺は派遣などの相談があると、伊島に話を聞いたりしている。  去年(2020年)、この向かいにある八丁目で“結婚”に関しての話をしたことで、俺は“ロクでもない目”にあったりしたが…。  伊島から「あそこ(ちゃんと屋)にしません?」と言われ、着席して話すと、即反論された。  俺は久しぶりに会った伊島に、先日前の吉井の態度と『ストレスチェック』の話をした。  てっきり慰めてくれると思っていたが、伊島の態度は素っ気なかった。  「鈴木さん、派遣会社の社員なんてそんなもんですよ」  と、伊島はすぐに言葉を放った。どこか俺への反感を感じた。  「そ、そうかな…」  「そうすよ。…“本音を言えば”ですよ。…別に現場の派遣の連中がストレスを受けようが、受けまいが構わないんすよ、働いてくれたら…」  「そ、そんな、お、お前…」  伊島の吐き捨てるような言葉に俺は驚いた。  驚きながら、それは俺も分かっていた。  派遣会社の人間にはそういう部分があるし、それが人間の“元値”だ、と俺は理解している。  以前、派遣の営業をしていた奴(白井)にも言われた。  綺麗事を並べても、最後には「言う通りに動けよ…」となる。ストレスを受けようが、苦労をしようが、文句や愚痴は受け入れられないのだ。それが派遣という働き方の側面でもある。
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