①怒りと嘆きと酒の夜は…

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 ちゃんと屋のこんにゃくを口に運びながら、伊島が尋ねてきた。  「…それより、鈴木さん。前に言ってた話、考えてくれました?」  「…ん?」  「『僕の派遣会社、登録しませんか?』、って話…」  そう言えば、そんな話したな。  伊島はさらに突っ込んできた。  「そこ、給料、どうなんすか?」  今のBPNの給料だ。  良いわけがない。俺の月収は10万円ほど。それに加え、他のバイトなどで何とか食いつないでいる。  それに満足している分けがない。  というか、とても40代の成人男性の平均月収に及ばない。“下流”も“下流”だ。  「…」  おれは答えに詰まった。  伊島はまた突っ込む。  「だから、どうっすか、そこ辞めたら…」  「…」  俺は先週、駐輪場で会った村木の妻に「ここ(病院)、辞めるから…」と言った事を思い出していた。  あれば村木の妻が「夫(村木)が病院に復帰する」と聞いて呆れ、思わず口走った言葉だ。  俺の本心は『もうあの職場(BPN)を辞めたい』だ。  あの村木の爺さんは、厨房で食器洗浄をするユニックスの同僚(鶴田)らと揉め、派遣元のユニックスの担当者(大村)らと揉め、さらに“半グレ”(上杉)にボコボコにされ、“まだらボケ”にされた。  その村木は、それでも体調と頭の具合が回復し、ユニックスが担当するあの病院の厨房の夕方からの仕事に“復帰”したらしい。  そこには不可解な理由がありそうなのだが、あの卑怯なじいさん(村木)が復帰するのなら、俺はもうあの病院には居たくないし、居なくても良さそうに思えた。
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