呪いの薔薇園

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報告                                                                                        「報告は以上です」 「長期の潜伏、および任務遂行と完了、ご苦労だった、アンジュ」 「いえ。いつもより長期ではありましたが、問題ありません」  ごく淡々と、豪華な机を挟んで正面にいる男に事の顛末を伝える。  あの後、殺したばかりの足で上司であるセバスチャンの元へ帰った。エイミではなく、”神秘殺し“の血濡れのアンジュとして。  ただ一つ違うとすれば、服の下につけたネックレス状の指輪くらいだろうか。いつも、仕事が終われば後片付けは手下がやってくれる。死体も血痕も落ちた装飾品もすべて、片付けてくれる。何もしないで帰れる。  でも、どうしても、あの金色の指輪だけは回収したかった。赤い天使ではなく、真っ白なエイミとして。 この行為は規律違反であり、ばれた瞬間に処分されてしまう。具体的には、廃棄分になるのだろう。多分。  だから、今だけは、組織の中にいる時は、絶対にばれてはいけない。 神秘を破壊するための機能のマヒも、アンジュの崩壊も、金色の指輪も。すべて、真実は誰にも知られることなく隠し通すしかない。  故に、淡々といつも通りの無表情で話す。  報告書に目を通し終わったセバスチャンが、グレーの瞳をこちらに向ける。いつもよりずっと優しかった。 「今回は長期の任務だったため、コードネーム:アンジュには一か月の休暇を与える。これは絶対の命令であり、いかなる理由でも神秘狩りに参加してはならない」 「それは、部屋から出ずにいろという命令でしょうか」 「何故そうなる……。そうではなく、一個人として休暇を取れと言っただけだ」  深いため息をついて背もたれに体重を預けた男が呟く。元々短期任務組には無縁な制度だ。知らないし、いつも通りクールタイムとして監禁されると思った。  まあ、脱走の常習犯ではあるから、簡単に抜け出せてしまうから意味はないが。  もしや、それを危惧して最初から休暇を与えることにしたのだろうか。多分、否きっとそうだ。そうに違いない。であるならば、大人しく引き下がろう。 「承知致しました。では、失礼いたします」 「嗚呼、たまには休暇を楽しむように」  セバスチャンに背を向け、部屋を出る。  重たい扉が閉じる瞬間、何か聞こえたような気がしたが、気にせず歩き出した。  気にする余裕はない。私にはもう、時間が残されていないのだから。
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