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血濡れ天使と赤い薔薇
不思議なくらい大きな満月が、白薔薇に青白い輝きを与えていた。
数多くの神秘を殺してきた自分が言うのもなんだが、神秘を体現したような風景だった。いつもの自分なら焼き尽くすか、放っておくかのどちらかだろう。
どんなに綺麗な景色も任務と言って消し去っていた自分。
当たり前の感覚すら持ち合わせなかった天使。
羽を毟られ堕ちたかわいそうな血濡れの天使さん。
堕ちることが悪いことだとは思わない。翼を失うことで身軽になることもある。
そう、教えてくれたのは、殺した男だった。
ちょっとだけ、口角を上げてみる。きっと今鏡を見たら醜い笑顔が映っているのだろう。目を伏せ、そっと仕事で使っていた、あの男を殺した拳銃を手に取る。
ありがとう、好きでした。自分の心臓を銀と鉛の弾丸で打ち抜く。
紅い血の雫が白い薔薇に飛び散り、その上に倒れる。いくつかのとげが刺さり、血が土や茨に吸い込まれていく。すべてがスローモーショに見えた。
ゆっくりほどけていく。細胞も、血液も何もかも。全部、灰になる。
吸血鬼の手に堕ちた人間は、文字通りこの世界から消えた。
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