真相

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「……でも、変ですね。それなら何で、その雨宮さん? は殺されたんですか。聞いてる限り、その人も政府の差し金でしょ?」 「えぇ、その通り。恐らく、荻原さんご自身も、真犯人についてある程度を付けておられるとは思います。ですが雨宮にしろ、真犯人にしろ、政府にとっては道具の一つに過ぎないのです。要は、事件そのものが初めから用意されたものだった、ということ」 「……そうは言いますけどね。俺やお袋を陥れるためだけに、ですか? 一体何のために」  俺が疑問を呈すと、宇沢さんは歯痒そうに視線を逸らす。  「……その辺りも、詳しくお話する必要がありそうですね。ですが、その前に一つ。前段として、基本的なお話をしましょう。そもそも、この『不幸の再分配』という、ある種の分断統治のシステム。誰が、どんな意図で始めたかご存知ですか?」 「……こちらは飽くまで、『世の中の不幸のバランスを取る』とかいう、建前しか聞いてませんよ。ただまぁ……、その口振りだと違うようですね。独立行政法人って話ですし」 「はい。『不幸の再分配』は、社会保障改革の一貫として、試験的に導入された政府による極秘プロジェクトの一端。言わば、世論醸成を行うための誘導策のようなものです。一部の人間にしかその存在が知らされていなかったのは、飽くまで試験的な運用だったからに過ぎません。徐々にその存在が浸透し、民意の了解が取れれば、正式な制度として本格的に運用される予定でした」 「まぁ、要は国策ってわけですよね? その試験場としてウチが設立された、と」 「はい。政府はこの制度の導入により、既存の社会保障の大幅な削減を目論んでいます。いつから計画されていたのかは、僕自身は分かっていません。恐らく時の政権が、財政健全化に固執する財務省と結託し、当時の厚労省の上層を取り込んだ上で画策したものと思われます。それがいつしか、国家の長期的なグランド・ストラテジーとなり、歴代の政権の施政方針に組み込まれ、脈々と受け継がれていったのでしょう」 「……厚労省もグルだったんですか?」 「えぇ。大方、条件の良い天下り先でも提示されたのでしょう。官僚も所詮は組織人ですから」 「聞けば聞くほど、ロクでもねぇ……」  思わず俺がそう溢すと、宇沢さんは青白く染まった顔を俯かせる。 「……話を戻します。周知の通り、システム面でも倫理面でも、非常に問題の多い制度です。しかし……、これは飽くまで話の序の口に過ぎません。はその先にある、極めて非人道的で悍しい計画にあります」 「非人道的?」  新井の問いかけに、彼は息を吐き、ゆっくりと口を開く。 「……Futuristic of Attribution Distribution、通称・FADと呼ばれる、内閣府主導で極秘に進められている国家プロジェクトです」
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